墓に運ばれるキリスト:ドラクロアの世界

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「墓に運ばれるキリスト(Le Christ descendu au tombeau)」は、当初聖シュルビス聖堂の装飾画として、「カルヴァリオの丘(ゴルゴタの丘)への道」とともに一対のものとして構想されたが、後に独立した作品として「カルヴァリオ」とともに1859年のサロンに出展された。

キリストの埋葬は、宗教画のもっともポピュラーなモチーフとして、さまざまな画家によって手がけられてきた。ドラクロアはそのモチーフを、キリストの遺体が大勢の人々によって地下の墓に運ばれるというイメージであらわした。地下は初期キリスト教の祈りの場でもあったわけで、そこにキリストの墓を結びつけるのは、ある意味自然なことといえる。

サロンでの評判は、「カルヴァリオ」ともども芳しくなかった。ひとりボードレールのみは、「1859年のサロン」の中で、これを激賞している。その文章を紹介しておこう。

「この『キリストの埋葬』以上に、この主題に必要な荘厳さをよりよく表現した作品がほかにあるなら、教えてもらいたい。ティツィアーノならこれだけのものを生み出し得たと、君は本気でそう信じるのか。彼なら別のやり方で画面を構想したであろうし、事実その通りであった。しかし私はこちらの方をいっそう好む。舞台は、この新しい宗教が長い間耐え忍ばねばならなかった地下生活のしるしである洞窟そのものである・・・多少とも詩人である愛好者なら・・・自己の想像力が、歴史的印象によってではなく、詩的、宗教的、普遍的印象によって強くかき立てられるのを感ずることであろう」(高階秀爾訳)

(1859年 カンバスに油彩 56.3×46.3cm 東京、国立西洋美術館)






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