時代遅れの帝国主義:G7の対中包囲網

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イギリスで開催された今年のG7は、アメリカのバイデン政権の強い意向に引きずられる形で露骨な対中包囲網形成への意思をあらわにした。バイデンの対中政策は、人種的な偏見を伴なったもので、19世紀末から20世紀初頭のアメリカで吹き荒れた黄禍論の再現といった様相を呈している。その時代には西洋列強による中国に対する帝国主義的な干渉・侵略が進んでいたわけだが、そうした帝国主義的な対中政策も、今回のG7には認められる。今は古典的な帝国主義がまかり通る時代とは言えなので、G7の対中政策は、時代遅れの帝国主義と言わねばなるまい。

バイデンが対中関係でヒステリックになっているのは、世界で唯一の大国としての地位を脅かされていると思うからだろう。今までのアメリカは、世界の巨人、圧倒的な強者として、いわば好き勝手なことをやって来た。第二次大戦後に起きた局地的な戦争にはすべてアメリカが絡んでいたし、自分の気に入らない政権、たとえばチリのアジェンデ政権を謀略的に転覆させてきた。そうしたアメリカの手前勝手な行動は、どの国や国家連合に対しても、アメリカが圧倒的に強力だったからできたことだ。ところが、そうしたアメリカの優位を中国が脅かしている。放置しておくと、アメリカの圧倒的な立場が根底から脅かされるかもしれない。そうした恐怖がバイデンを駆り立て、なりふり構わぬ対中強硬姿勢をとらせているのだろう。

バイデンも、さすがに自分のそうした意図を露骨に押し付けるわけにもいかず、民主主義対専制主義の対決とか、普遍的価値観を共有することの重大性とか、一応お題目を並べているが、それが欺瞞的なことは、まともな頭を持った人間なら先刻承知のことである。アメリカは、自国の利益のためには平気で民主主義を踏ふみにじってきたし、普遍的価値観と言いながら、イスラエルのユダヤ人がパレスチナ人相手に行っている蛮行には目をつぶっている。要するに、二枚舌を露骨に使い分けているわけだ。

中国の台頭によって、欧米のいわゆる先進国が、深刻な脅威を受けることは確かだ。しかし、それが地球全体として不都合かどうかは別問題だ。少なくとも後進国の身になってみれば、アメリカと中国が牽制しあうことは不都合ではない。今回のG7では、コロナ対策やインフラ整備の分野で先進諸国が積極的に貢献することがうたわれたが、こんなことは、従来はあり得なかったことだ。そこには中国の存在がある、欧米諸国がこうした政策に踏みだしたのは中国への対抗心からで、もしそういう事情がなかったら、こんなことは起こらなかっただろう。そういう意味で、国際社会の力のバランスが多極化することは決して悪いことではない。

なお、日本の菅政権は、すでに対中政策でアメリカと歩調を合わせることを確認しており、対中強硬政策に積極的である。菅政権の対中強硬政策の背景には、いまのところ尖閣問題が働いているのだと思うが、たとえば台湾問題に関して、中国に重大な内政干渉と受け取られるような態度を示している。どこまで先を考えてそういう行動をとっているのかはわからぬが、このままズルズルと対中強硬路線を走っていけば、遠からず中国との間で深刻な対立に発展することは避けられない。それがいいか悪いかは、視点の所在によって異なって見えるが、少なくとも熟慮したうえで外交を進めていくことが求められよう。五輪開催問題に見られるように、菅政権には、熟慮して進めるのではなく、中途半端なまま、なし崩しに事態を展開させていく傾向を指摘できる。一国の命運を担う者としては、それでは困るのである。





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