12か月の未来図:オリヴィエ・アヤシュ・ヴィダル

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オリヴィエ・アヤシュ・ヴィダルの2017年の映画「12か月の未来図(Les grands esprits)」は、フランスの教育格差をテーマにした作品。それにちょとした失恋を絡ませて、観客を不思議な気持ちに導いてくれる。味わい深い映画である。

フランスの教育格差は、経済的な理由と人種問題が複雑に絡み合っているようである。パリの名門リセは、裕福な白人の子供が通っているのに対して、郊外の公立学校では、貧しい移民の子が多く、教育意欲も低い。それは経済的な理由のほかに、人種差別の問題も絡んでいるようだ。この映画では、野心に燃えるパリの名門リセの教師が、ひょんなことから郊外の公立学校に転勤させられ、そこで深刻なクラス崩壊に直面しながら、生徒たちを正しい方向に導いていくというような内容である。

この郊外の公立学校は、生徒の大半がアフリカ系の移民の子供たちである。かれらは学習意欲をほとんどもっていない。成功体験がなく、自分を過少評価しているからだ。そんな生徒たちにこの教師は、体をはってぶつかっていき、学習することの楽しさを教えるのである。

この教師が名門リセから荒れた公立学校に転勤させられたのは、学校改革のきっかけをつかむためだった。この教師の実践を参考にして、郊外の公立学校の改革に取り組みたいと文部省は考えている。いきなり改革しようとすると、教員組合が大反対するので、改革の実績を積み上げて、それで組合も納得させ、望ましい学校作りをしようというわけだ。その辺は、教員組合の意向を気にせず、当局の考えがそのまま学校現場に持ち込まれる日本とはかなり違う。どちらがよいとは、一概には言えない。

ともあれこの教師は、粘り強い努力が実って、クラスをさまざまな点で改革する。一年経った時点で、クラスの平均学力は上昇し、また生徒たちの道徳観念も身についてきた。その点では、この教師は大成功を収めたのだが、かすかに芽生えてきた同僚の女教師への恋は実らなかった。教師の失恋と並行して、手のかかる生徒の同級生への恋も破れる。その子も学業は伸ばしたのだったが、恋は実らなかったのだ。映画は、この恋に破れた師弟の姿を並んで映し出しながら終わる。その際にエンディングテーマが流れる。1968年に大ヒットした曲 Those were the days だ。その哀愁に満ちたメロディを聞いているうち、小生は胸の底から突き上げてくるものを感じた。この曲は失恋を歌ったものなのだが、歌詞の一部が自分の幼いころの失恋を思い出させたのだ。

その歌詞は、We thought they'd never endといい、また、we're older but no wiser, for in our hearts the dreams are still the sameというものだった。幼い時の恋は、それがかけがいのないものだという自覚がない。だから、失って初めてその大切さに気が付く。小生もそんな体験をしたことがあって、その時の苦い思いが突然よみがえってきたのだ。この歌詞と同じような言葉を、小生自身当時の日記に書いたことがあった。それはボードレールの文章をひねったものだった。
  芝居の幕はとっくに下りたのに
  俺はまだ続きを期待していた

そんな具合なので、この映画は小生のような老人にも、自分自身の青春を思い出させてくれる映画である。

なお、原題は「大いなる野心」とでも訳すべきか。教師の教育改革への野心と、生徒の恋の野心をかけている。






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