娘深雪:上村松園の美人画

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「娘深雪」と題するこの絵は、人気歌舞伎「朝顔日記」に取材した作品。朝顔日記は、九州秋月家の娘深雪が、恋人の宮城阿曹次郎を慕って家出し、盲目の角付け芸人となって流浪するという話。深雪と宮城がたびたびすれ違うことから、メロドラマの原型といわれ、「君の名」などに影響を与えたといわれる。

その深雪を画題に選んだ理由を松園は「朝顔日記の深雪と淀君」という一文の中で言及している。その中で松園は、自分が好きな女性として朝顔日記の深雪と淀君が好きだと書いている。「内気で淑やかな娘らしい深雪と、勝気で男勝りの淀君とは、女としてまるきり正反対の性質ですけれど、私にはこの二人の女性によって現わされた型が好きなのです」という。

このシーンは、「まだ盲目にならない深雪が、露のひぬま・・・と書かれた扇を手文庫から出して人知れず愛着の思いを述べているところに足音がして、我にもあらず、その扇を小脇に隠した、という刹那のところを」描いたと松園は書いている。

浮世絵の影響が強く感じられる作品だが、その浮世絵の美人画の中では春信と長春が好きだと松園は同文のなかで言及している。また、美人画はたんに女を美しく描けば足りるというものではなく、性格のようなものを表現しなければならないといった趣旨のことも言っている。

(1914年 絹本着色 153.0×84.0cm 安来市、足立美術館)





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