ワレサ 連帯の男:アンジェイ・ワイダの映画

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アンジェイ・ワイダは、「地下水道」や「灰とダイヤモンド」など、ポーランド現代史に題材をとった映画を数多く作った。2013年の作品「ワレサ連帯の男」は、ポーランド現代史上の英雄といわれるレフ・ワレサの、民主化運動指導者としての半生を描いたものである。

イタリアの女性ジャーナリストのインタビューに応じて、ワレサが自己の半生を語るという形式をとっている。このインタビューがいつなされたのか。1989年のベルリンの壁崩壊についても触れられているので、それ以降のことだろう。女性ジャーナリストの名はオリアナ・ファラチということになっており、彼女は2006年に77歳で死んでいるから、それ以前であることはたしかだ。映画の中のファラチはかなり高齢に見えるので、2000年前後のことかもしれない。

ワレサの回想は、1970年のストライキから始まり、1980年の大規模ストライキを背景とした連帯運動の高まり、そして1983年におけるノーベル賞の受賞を経て、1989年のベルリンの壁崩壊に至る。この時期のワレサは、民主化運動のシンボルとして支持を集める一方、官憲による弾圧にも見舞われたわけだが、それをワレサは、持ち前の楽天主義で乗り切ってきた。そんなワレサの生き方を映画は淡々と描き出している。

ワレサは、自分にはリーダーとしての素質があると自覚していた。その素質は子どもの頃から光っていたようだ。かれは子供時代の自分を「ワル」だったと言っており、なにごとにも物怖じせず、集団をまとめる能力にたけていた。その能力が、ワレサを類希な指導者に押し上げたというふうに伝わってくる。

映画の中のワレサは、家族に強い愛情を抱いている。彼がくじけずに頑張れたのは、何よりも妻の励ましがあったからで、もし彼女がいなかったら、こんなに頑張れなかっただろうと率直に認めている。その妻はワレサのために六人もの子どもを生んでくれた。ワレサはカトリックだったというが、妻もそうだったのだろう。

その妻にワレサは、ノーベル賞の授賞式に代理出席させる。自分が国外に出たら、二度と故国に戻れないと恐れたからだ。妻は役目を果たしてポーランドに戻ってくる。空港で入国検査を施され、裸にされたうえで、尻の穴まで覗かれるという屈辱を味わされる。それでも妻は夫に向かって不平を言わないのだ。そんな妻の姿を見ていると、ポーランドの女は誇り高く、男は安心して妻に家族をゆだねられると伝わってくる。

ワレサは1990年から五年間、ポーランドの大統領をつとめたが、映画はそのことには言及していない。あくまでも民主化運動の指導者としてのワレサを描いている。その視点は、ややステレオタイプ化したもので、また映画としての物語展開にもドラマチックな要素はほとんど認められない。ドキュメンタリータッチで淡々と事実を追うといったタイプの映画である。





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