1909年の第5回アンデパンダン展に、ルソーは、「詩人に霊感を授けるミューズ」とともに「ジョゼフ・ブリュメールの肖像」を出展した。どちらもルソー晩年の肖像画の傑作である。
ジョゼフ・ブリュメールは、当時ハンガリーからパリにやってきた芸術志願者で、彫刻を学ぶかたわら、生活費を稼ぐために、日本の版画なども売っていたという。後にはアルバイトのほうが本職になって、アメリカにわたって画商になった。
ルソーの取り巻きのひとりとなり、友人たちにルソーを買うように勧めたりした。そんなブリュメールにルソーは好意を抱いた。この肖像画の制作は、その好意のあらわれである。
モデルのブリュメールは、熱帯植物を背景にして、椅子に腰かけ、ほかのルソーの肖像画同様、正面を向いている。その表情には人懐かしさが感じられるので、見ている者は、かれから話しかけられているような感覚を覚えるであろう。
色づかいが鮮やかである。グリーンがかった色調のなかに、補色のレッドが人物のまわりを囲んでいるので、その分画面が引き締まって見える。
(1909年 カンバスに油彩 116×88.5㎝ 個人蔵)
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