詩人に霊感を授けるミューズ:アンリ・ルソーの世界

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「詩人に霊感を授けるミューズ(La muse inspirant le poète)」と題するこの絵は、1909年の第二十五回アンデパンダン展に出展された。絵のモデルは、アポリネールとマリー・ローランサンだ。アポリネールとは、前年の1908年に知り合ったばかりで、急速に仲良くなっていた。そのアポリネールをモデルにして肖像画を描くについて、ルソーはモデルの名を明かさないと約束した。

ところが展示会場では、見る人のほとんどが「アポリネールに似ていない」と言った。アポリネールとしては、そんなことを言うのは、この絵のモデルがアポリネールだと公言されているからではないかと、ルソーにせまったが、ルソーは自分が明かしたわけではないと、言い訳をした。

アポリネールに迷惑をかけたと感じたルソーは、絵を描きなおした。当初の絵では、ニオイアラセイトウの花を描き入れていたのだったが、よく考えると、詩人に相応しいのはカーネーションである。そこでルソーは、花をカーネーションに替えて、新たな絵を描いてアポリネールに贈った。

上の絵が最初のバージョン。下の絵が二枚目のバージョンである。

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この二枚目のバージョンは、単に花が描き直されているばかりでなく、人物の雰囲気もかなり異なって描かれている。二名目のほうが柔らかい感じがする。

(一枚目 1909年 カンバスに油彩 144×114㎝ プーシキン美術館)
(二枚目 1909年 カンバスに油彩 146×97㎝ バーゼル美術館)





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