「蘭燈」と題するこの作品も、セノオ楽譜の表紙絵として制作されたもの。夢二はセノオ楽譜のために270点あまりの絵を制作したが、その中には自分で作詞したものもあった。「 蘭燈」も夢二が作詞している。
詩の内容は次のようなもの。
和蘭屋敷に提灯つけば
ロテのお菊さんはいそいそと
羞恥草は窓の下
玉蟲色の長椅子に
やるせない袖打ちかけて
サミセン弾けばロテも泣く
これはフランス人ピエール・ロティと日本人女性お菊との恋をテーマにしたオペラ「お菊さん」に取材した曲だ。ロティのことを夢二はロテと書いている。お菊さんのほうは「サミセン弾く」と書いてあるが、サミセンとは三味線のこと。いかにも日本の遊女にふさわしい小道具だ。
そのお菊は、夢二の女性の例として体をS字にひねっている。彼女の背後には青年がうつぶせの姿で絵が描かれているが、どうもフランス人のようには見えない。これも愛嬌であろう。
(1917年 石版画 40.0×30.0㎝)
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