ある戦争:デンマークの戦争映画

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2015年のデンマーク映画「ある戦争」は、デンマーク軍人の戦争犯罪をテーマにした作品。デンマークは、ブッシュの始めたアフガンの対タリバン戦争につきあって、多国籍軍に加わる形で参戦したのだが、そのデンマークの一軍人が、アフガンの民間人11人を殺害した容疑で起訴され、裁かれる。その裁判の結果、容疑者は無罪になるのであるが、自分が犯したことに対しては、割り切れない気持ちを抱えたままだ、というような内容である。

容疑者は、相手が民間人とわかって殺害したわけではない。敵であるタリバンと戦っているという意識であった。そういう意識になったことには、戦場の独特の雰囲気が働いている。度重なる異常事態のおかげで、司令官である容疑者をはじめ、デンマーク軍人たちは一種のパニックに陥っていた。そのパニック感情がかれらの判断力を鈍らせ、民間人の殺害につながる攻撃をさせたというふうに伝わってくる。

肝心の民間人殺害の現場については、映画は正面から描いていない。目に見えぬ敵と戦っているうちに、気が付いたら民間人殺害の容疑で拘束されたという具合になっている。だから、見ている方も、強い臨場感がない。それで、容疑者がなせ訴追されねばならなかったのか、いま一つ現実感が持てない。民間人殺害の現場を生々しく映し出していたら、観客はそれについて、自分なりの判断を下せようと思うが、それがないので、なぜこの司令官が裁かれねばならなかったか、納得ある評価ができない。

デンマークのような国は、久しく戦争をしたことがないだろうから、軍人といえども、戦争について感覚的につかむことはむつかしいのだろう。それにしても、容疑者は職業軍人のはずで、その軍人が、戦場をめぐる雰囲気にのまれて、まともな判断力を失うというのは、かなり異常なことである。なにしろこの映画の中のデンマーク兵たちは、疑似的な戦争の雰囲気に圧倒されて、右往左往しているありさまなのだ。情けない兵士たちと言わねばならない。

監督のトビアス・リンホルムが、どういうつもりでこんな映画を作ったのか。デンマーク人には戦争は似合わないと言いたかったのか。





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