大統領と議会の対立:アメリカの統治システム

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日本の自治体にはアメリカ型の大統領制が採用されているというふうに、一般的には理解されているので、アメリカの統治システムは、日本の自治体のそれに似ているのだろうと思いがちだが、実はこの二つは重大な点で異なっている。ひとつは、日本では議会が首長を不信任でき、これに対して首長は議会を解散できるのに対して、アメリカの場合には、両者は相互に不信任することができず、あくまでもそれぞれ法定の任期を全うすることになっていること。もう一つは、日本の首長には議案の提出権があるのに対して、アメリカの場合には、法案を提出できるのは議会だけであり、大統領は法案に賛成できない時には、拒否権を発動しうること。この二点である。

これは、アメリカにおいては、大統領と議会とが深刻な対立に陥った時、その対立を最終的に決着させるための、政治的な装置が欠けているということを意味する。日本の自治体なら、たとえば議会が首長を不信任し、それにたいして首長が議会を解散して、住民の信を問うか、あるいは、首長みずから辞任して再選挙を行い、住民の信を問うと言ったやり方が可能だが、アメリカの場合にはそれができない。両者は睨みあったまま膠着状態に陥るか、あるいは互いに譲るべきを譲って妥協をはかるか、そのどちらしかない。

所謂財政の崖をめぐって、大統領と議会が対立した今回の事態は、まさにこうした統治システム上の問題が表面化した典型的なケースだったわけである。さいわい今回のケースでは、ぎりぎりのところで妥協が成立し、国民の生活に甚大な影響を及ぼすといった事態は避けることができた。しかし、その妥協は、なみなみならず難しいものであったらしく、膨大なエナルギーを費やして初めて可能なものであった。

アメリカ型の大統領制は、大統領と議会とを、権限の上では対等の機関と位置付け、しかも相互に完全に独立したものと位置付けているので、上述のような事態が生じるわけである。

大統領と議会の多数党とが同じ政党基盤に立っていれば無論このようなことは起こらない。しかし両者を同じ政党が占めたことは、これまでのアメリカの政治史上少なかったのであり、議会の多数派を大統領とは異なる政党(日本的感覚からいえば野党)が占める場合の方が多い。それでも政治が動いてきたのは、両者の間で妥協を成立させる政治的な伝統が働いてきたことの結果だったわけである。

しかし最近はそうした妥協が難しくなってきている。その背景には、民主・自由両党の間で、価値観を巡る対立が深刻化してきているといった事情があるらしい。

日本の地方自治体と言えば、殆どの場合首長は殿様のようなものであり、議会による強いチェックを気にせずに、勝手放題なことができる、というイメージが一般化しているが、そんなイメージを以てアメリカの政治を理解しようとしたら、それは大間違いだということだ。(写真はNew Yorkerから)


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