ところがこの動きをけん制するような向きもある。ドイツのケルケル首相などは、この円安が意図的な為替操作の結果ではないかと批判している。これに対して日本政府は、円安に見える動きは為替操作によるものではなく、実力以上に買被られていたものが実力相応に戻っているだけだと反論しているが、なかなかそう素直には見てくれないようだ。
オーソドックスな為替操作といえば、円を売ってドルなどの外貨を買うことである。今回は別にそういう動きを日本政府がしているわけではないので、露骨な為替操作をしていないとの釈明には一理あるようにも見える。しかし、メルケルがそう受け取らないことには、それなりの理由がありそうだ。
為替操作というのは、円を叩き売りすることで、円の価値を下げようとするものだが、叩き売り以外にも、円の価値を下げさせるやり方はある。例えば野放図な金融緩和だ。野放図な金融緩和によって、円がだぶだぶになるほど供給されれば、当然円の価値は下がる。円は外国通貨に対して安くなるとともに、物価をあげる作用もする。
この物価を上げようというのがアベノミクスの趣旨だ。アベノミクスとは、一義的にはインフレターゲットを設定して、その目標に向けて金融緩和をしようとする政策だから、当然円の価値を下げる効果をもたらす。円の価値が下がれば円の為替相場が下がる。それは見え透いたことだ。その見え透いたことを、メルケルなどは批判しているわけである。だから日本は意図的な為替操作をしていないとする財務省の理屈には説得力がない。
しかしそれにしても、円の下がり方が尋常ではない。まだ金融緩和の効果が表れていない先から円相場が下落しているのだ。そこには経済理論ではなかなかうまく説明のつかない力が働いているとしか考えられない。その力とはいわば闇の力、つまり投機的な思惑の力だ。
市場はいまのところ、アベノミクスのメッセージに、日本経済の構造的な変化の可能性を読み取っているのだろう。経済が変化するということは投機のチャンスが生まれるということを意味する。そのチャンスをあてにして巨額の投機マネーが動いているのではないか。
そんな動きに不気味さを感じるのは筆者のみではあるまい。
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