がん:病の起源

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NHKスペシャル「病の起源」第一集は「がん」の特集だ。がんは多細胞生物の宿命と言われており、人間以外の動物でもかかる。そのひとつの証拠として、1億5千万年前に生きていた恐竜の化石からもがんの痕跡が見つかった。しかしその発病率は、人類の場合飛躍的に高い。兄弟分のチンパンジーと比較しても、チンパンジーのがん死亡率が2パーセントなのに対して、人類(日本人)のそれは実に30パーセントである。何故、人間はこんなにもがんになりやすいのか。その秘密は人間の進化にある。人間は進化の代償としてがんになりやすい宿命を背負ったというのだ。

人類は進化の過程でいくつかの大きな転換点を経てきたが、そのたびにがんのリスクが大きくなったという。がんというものは、基本的には細胞のコピーミスによってできると考えられているが、このコピーミスが起きやすいような条件が、進化の転換点ごとに加わってきたというのだ。

最初の転換点は二足歩行だ。二足歩行をきっかけにして人類の生殖パターンが大きく変化した。それまではチンパンジーと同様に、季節のバイオリズムに応じて生殖活動をしていたものが、二足歩行をきっかけに、一年中生殖行為を行うように切り替わった。のべつまくなしにセックスするようになったわけだ。それに応じて、人間の男性の精嚢は常に精子を作り続けるようになり、女性の方も短い周期で排卵するようになった。これは細胞の活動が活発化したことを意味する。細胞の活動が活発化すればするほど、細胞のコピーミスも発生しやすくなり、その結果がんになりやすくなったというのである。

次の転換点は180万年前の頃だ。この頃に人類の脳は飛躍的に大きくなった。この頃に生きていた人類の祖先はホモ・エレクトスだが、その脳はそれまでの人類の脳の倍(1000リットル)になった。それを可能にしたのはFASという酵素だ。この酵素の働きによって脂肪酸の生成が促され、脳が巨大化したのであるが、同時にその細胞を活性化させる働きががんの発生リスクを高めた。つまり人類は知能と引き換えにがん発生リスクを背負ったというわけである。

第三の転換点は6万年前のことだ。この頃に人類はアフリカを出て地球中に広がり始めた。これを出アフリカというが、この過程で人類はいろいろな気象条件のもとで生活するようになった。当然その中には日差しの弱いところもある。ところがこの日差しの不足ががんを発生させやすいというのである。日差しの強いところではビタミンDが作られやすく、其のビタミンDががんの発生を抑える効果があることがわかっている。人類はアフリカを出て地球上に広がる中で、がんのリスクを高めてしまったのである。

最後の転換点は産業革命だという。18世紀以降の産業革命によって、人類は様々な物質を作り出してきたが、その中には発がん物質も多く含まれていた。タバコやアスベストはその最たるものである。また、エネルギー革命を通じて明るい夜が実現し、人類は夜でも働くようになった。ところが夜間勤務は昼間の勤務に比べて発がんリスクが高い。

こんなわけで、人類は生物学的な進化のプロセスを通じてがんのリスクを背負ってきたことに加え、最後には自分の手で発がん物質や発がんしやすい環境を作りだし、がんになるのが当たり前、といった状況に自らを追い込んできた、というのである。

なんとも皮肉な話ではある。(映像はガン細胞:NHKの画面から)


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