規制改革会議に場を移した労働破壊論議

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先般安倍政権の産業競争力会議を舞台にして解雇規制の緩和が論じられたことは記憶に新しい。その際には、金銭でもって解雇ができるようにとの議論が有力になったが、結局安倍首相自らの判断で、この議論は打ち切りになった。経営側のあまりにもえげつない意図に寄り添っているとして、広範な批判を呼んだことに、安倍首相が、彼独特の臭覚で反応した結果である。

ところが、同じような議論が今度は、規制改革会議を舞台に論議されている。こちらは、産業競争力会議の時とはちょっと違った切り口で、解雇規制を容易にしようとする議論が進行しているらしい。

産業競争力会議の場では、今いる正社員全員を対象にして、企業が好きな時に好きなように解雇できるようにしようという議論が横行したのだったが、今回の場合には、もう少し慎重な議論になっているらしい。既存の正社員については、ある程度その雇用の安定を保証しながら、今後生まれてくる新たな正社員について、簡単に解雇できるようにしようというらしいのである。

新聞報道等によれば、正社員を二つの類型に分ける。いままでどおりの正社員のほかに、新たに限定正社員なるものを導入し、これらについては、仕事内容や働く場を限定して採用する。つまり欧米並みのジョブに基づく採用をしようとするわけである。普通の正社員はいままでどおり、どんな仕事もするし、また転勤命令を拒否するのが難しいが、簡単に解雇されることはない。それに対して限定正社員は、契約で定められた仕事だけをしていればいいし、当然転勤も拒否できるが、そのかわり、経営上の理由で今まで従事していた仕事や働いていた場所がなくなる場合には、簡単に解雇することが出来る、というふうに考えているらしい。

これは一見してヨーロッパ諸国並みの雇用制度を日本にも導入する試みのように見える。しかし、雇用制度という者は、それだけで成り立っているものではない。福祉制度を始め他の様々な社会システムと一体となって、労働者の生活が成り立つように制度設計されているのが普通である。ヨーロッパの場合には、労働者はいつ解雇されても家族が路頭に迷わないよう政策的に配慮されているし、また生涯を通じて安定した生活ができるように様々な配慮がセットになって、雇用制度というものが作られている。それなのに、雇用をめぐる社会システムが全く違うところに、他国のシステムの一部を接ぎ穂のように導入したら、どんなことになるか。

規制改革会議は、限定正社員については、企業の都合で簡単に解雇できるようにと考えているらしいが、彼らがお手本としているヨーロッパ諸国においても、企業は相当の事情がなければ解雇できないことになっている。つまり規制改革会議は、他国の制度のうち自分に都合のいい部分だけ接ぎ穂のように導入しようとするばかりか、そのお手本に比べても更に自分たちの都合のいいように変えようとしている、そんなふうに受け取れる。

規制改革会議が議論しているのはそれだけではない。今でさえ労働劣化の元凶となっている派遣労働について、規制を更に緩和しようとしているのだ。つまり、日本の経営者たちは、非正規雇用を更に拡大させるとともに、正規雇用を分断し、首切りしやすい正規労働者を増やす一方で、企業にとって都合の良い人材だけを、従来と同じように無制約・無限定に働かせようという魂胆のようである。

なによりもおかしく思えるのは、こうした雇用制度の根本にかかわる議論が、当事者たる労働者の意見をまったく聞かないで行われている事である。規制改革会議のメンバーを見れば、そこには労働者の利害を主張できるような人は一人も入っていない。入っているのは経営者の代表たちと彼らの意向をよく理解している御用学者ばかりである。そんな連中が労働についての基本的な枠組みを決定しようというのは、どう考えてもフェアではない。


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