子守:炎の画家ゴッホ

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「子守(La Berceuse)と題したこの絵は、郵便配達人ジョゼフ・ローランの夫人オーギュスティーヌ・ローランを描いたものである。彼女はこの時、三人目の子を産んだばかりであった。ゴッホは、ルーラン家の人々の肖像を、合わせて二十点も描いたが、これはその最も優れたものの一つである。

子守女とはいえ、肝心の子どもが描かれていないので、そう言われなければ、誰も気付かないだろう。この絵の中の彼女は、赤ん坊を揺籠で揺らす代わりに、自分自身が安楽椅子に腰かけて、体を揺らしているように見える。わずかに彼女の手に握られた縄が、揺籠を揺らすための道具を暗示しているだけだ。

ゴッホはこれと同じ構図の絵を計五点も描き、ローラン夫人、ゴーギャン、ベルナールに贈呈している。その際に、この絵の両側にひまわりの絵を飾って欲しいと指示している。黄色い絵で両側を画することで、この絵の色彩感覚がいっそう引き立つと考えたようだ。

この絵は、グリーンと赤の補色対比を中心にしている。そのうえで背景として花柄模様を配置しているが、これは夫の絵にある花柄模様と相応じるものだ。壁紙かもしれないが、夫の絵の中の花柄模様とは大分異なっている。花が飛び出て見えないように、慎重に工夫されている。花が飛び出ては、モデルの存在感が弱まってしまうからだ。

(1889年1月 カンバスに油彩 92.7×72.7㎝ オッテルロー、クレラー・ミュラー美術館)






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