
過日お知らせしたとおり、小生は友人数人とともにロシアに十日間の旅をしました。その折の見聞を旅行記にしたてて当ブログで紹介したいと思います。旅行記を題して「露西亜四方山紀行」としました。連載は十数回にわたります。最後までお楽しみください。
露西亜四方山紀行 序
余は幼年の折ロシア語を学び、チェーホフやらツルゲーネフを愛読せしものなれど、学校を卒業してさる組織に職を得て以来、ロシア語とは無縁の生活を続け来れり。このままにては、一度は身に着けたる語学の知識も、火葬場の煙とともに消えゆくならむと思ひをれる折しも、友人らとともにロシアに旅せんとの計画持ちあがれり。
余は昨年夏四方山話の会の諸君数名とともにドイツに旅せることあり。その同人のうちより今年はロシアに旅せんとの提案示さる。余はよき機会なればとて、その計画の具体化に努めたり。時期の設定より航空機の手配・旅館の予約など一手に引き受け、今年の九月中旬八泊十日の予定を以てロシアの諸都市を巡り歩かんとの計画を立てたり。すなはち、飛行機にてモスクワに到り、そこより古都ベリーキー・ノヴゴロドを経てサンクト・ペチェルブルグに及ぶといふものなり。モスクワよりノヴゴロドまでは夜行列車に乗ることとせり。
かくて計画煮詰まり、参加者も決定せり。参加するものは余の外、石、浦、岩の三子なり。昨年ドイツ旅行に同行せる七谷子は今年は参加を見合はせたり。
参加者のうち石子も又学生時代に余とともにロシア語を学べり。されど、すでに忘却甚だしくロシア人との会話をなす自信あらずといふなれば、専ら余がロシア人との意思疎通にあたることとはなりぬ。余も又ロシア語を忘却すること石子に劣らずといふべきなれば、聊かの不安はありたれど、天性の楽天主義を発揮してなんとか乗り切ることを得たるは幸なり。
ロシアはヨーロッパの田舎といはれ、半分はヨーロッパなれど残りの半分は野蛮とはよくいはるるなり。こたびの旅にてもそのことをよく感じせしめられたり。その詳細は追って本文を以て明らかにすべし。
ともあれ余は、初めてロシアに旅することを得て、長年抱き来れるロシアへの思ひの一端を満足せしめんとて、心のはやるを覚えつつ日本を後にしたり。その折の気持をつたなき漢詩にしたためて諸生に示さんと欲す。すなはちいはく、
誰知精気掣鳳凰 誰か知らん精気鳳凰を掣すを
一片夢想駆天空 一片の夢想天空を駆ける
好是無窮青陽朝 好し是れ無窮青陽の朝
双翼直向欧州涯 双翼直に向ふ欧州の涯
余はもとより漢学の才に乏しければ、法則運用上の誤謬は逃れ難し。諸生には平仄を云々して余を責むることなかれ。
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