はじまりのみち:木下恵介の青春時代を描く

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2013年の原恵一の映画「はじまりのみち」は、木下恵介生誕100周年を記念して作られたもので、木下恵介へのオマージュのような作品である。映画監督個人へのオマージュとしては、新藤兼人が溝口健二の生涯を描いた「ある映画監督の生涯」があるが、原のこの映画は、木下の生涯の一時期(青春時代)に焦点を当てて、木下の映画作りへのこだわりのようなものを取り上げている。

木下は昭和十九年に「陸軍」を作ったとき、これを戦意高揚映画としては女々しすぎると言って、軍部から強く非難された。これ以後木下は一時映画作りから離れるのだが、この映画ではそれを木下自身の選択として描いている。しかして、静岡の実家に舞い戻った後、空襲の激化に伴って奥地に疎開するのだが、そこで家族や周囲のものに励まされて再び映画作りを目指すにいたる過程を描いているのである。

映画は、静岡の奥地に疎開するに際して、木下が病気の母親を気遣って、母親をリアカーに乗せて数十キロの山道を歩く様子を中心に展開する。その疎開の旅に同行した便利屋とか、一夜の宿を借りた旅館の人々との暖かい交流を経て、ついに山奥の疎開先にたどり着くと、そこで母親から映画現場への復帰を強くすすめられて決意する過程を描く。

そして木下が映画作りに舞い戻る決意をしたのは、自分の作った「陸軍」に、感動したものがいたことを知ったことが機縁になった、というふうに映画からは伝わってくる。

その「陸軍」の中身が、映画のところどころで紹介される。田中絹代演じる母親が気の弱い息子を鍛えるところとか、その息子が招集を受けて、博多の市内を行進する時に、母親が必死で息子の姿を追い続けるあの感動的なシーンが、繰り返し紹介される。それゆえこの映画を見た人は、木下は「陸軍」という映画を通じて、親子の愛を表現したヒューマンな作家だとの印象を持つにちがいない。

「陸軍」の外にも木下の代表的な作品群の一部が切り絵細工風に次々と紹介される。それらを見ると、木下が様々なタイプの映画を作ったということを改めて感じさせられる。

なおこれを作った原恵一は「クレヨンしんちゃん」などを制作したアニメ作家で、木下恵介とは直接のかかわりはないらしい。





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