平成卅一年を迎えて

| コメント(0)
ino1_2.jpeg

今年は平成最後の年になる。このおよそ三十年間にわたる平成という時代を振り返って、そこにどのような感慨を持つことになるだろうか。「失われた三十年間」という言葉が流通しているが、この言葉によって意味されているものが、そっくりそのまま平成という時代の内実をなしているとしたら、この平成という時代は、非常にネガティブなイメージにまとわれているということになる。先行する昭和時代が、ネガティブとポジティブの両方の層からなっていることに比べると、平成がトータルとしてネガティブであることは、日本の歴史のなかで極めて特異な時代だったと、後世の歴史家からレッテル貼りをされるかもしれない。

小生についていえば、所謂団塊の世代に属していて、戦後まもなく生まれ、日本の復興とともに生きて来た。小生の生きた昭和時代後半を通じて、日本はいわわる右肩上がりの膨張を続けて来たのだったが、平成に入るといきなり、世の中が縮みはじめ、それが三十年間も続いたというわけだ。小生のように、世の中の発展と停滞と両方を体験したものと、停滞しか体験したことのないものとでは、おのずから世界の受容の仕方も異なるのだろう。今の比較的若い世代の多くの人々は、貧困があふれる停滞した世の中しか知らぬので、貧しい生き方しかできぬらしいが、それを小生のような発展する時代の豊穣を知っている人間の目から見ると、実に気の毒に映る。

この貧困で惨めなイメージしか与えてくれない平成という時代が過ぎた後、果たしてもっとましな時代が来るのかどうか。どうもそうは思われない。かえって日本はもっと縮んでゆき、しまいには、星の一生ではないが、収縮の圧力が極点に達して、大爆発を起こさないとも限らない。もっとも日本がそうなる前に、地球全体がおかしくなることも考えられる。人間という不遜な生き物が地球を破滅させる可能性は非常に高いし、またその愚かな人間が、互いに殺しあい、そのあげくに地上から人間という種が絶えてしまう可能性さえ排除できない。

そんなことを考え始めると、すでに高齢に達してしまった小生などは、このさき生きてゆくうえでの喜びが著しくそがれるのを感じるのだが、そう悲観してばかりいると、精神衛生によくないし、酒の味も悪くなろうというものだ。

そこで、今年もあいかわらず例年のとおりだと前提して、歳占いのつもりで、いつものように熊楠先生の十二支考をひもといてみた。

今年は亥年である。つまりイノシシの年ということだ。そのイノシシを漢字では猪と書くが、単に猪と書くと、支那でも朝鮮でも豚のことになる。だから特にイノシシを意味したい時には、野猪と書くべきだと熊楠先生はいっている。その野猪について、先生は例によってさまざまな考証を加えている。

イノシシも豚も同じようなものであるから、というか兄弟にあたる関係にあるから、その性質・特徴も互いに似通っている。それには明暗両面があるが、明の側面について言うと、イノシシの類は勇気があるというのが最大の売りだ。先生が最初に強調するのは、イノシシは蛇を恐れず、かえって蛇を食ってしまうということだが、それもイノシシの勇猛さの現れということらしい。イノシシの勇猛さは猪突猛進などという言葉で茶化して表現されているが、実際にはイノシシは非常に理知的な行動をとるのだそうだ。イノシシは集団的に行動し、強力な敵と出会うと、その集団の力を遺憾なく発揮して排撃する。その勢いには、猟師や虎でさえも辟易するのだそうだ。

一方、暗の部分についていえば、イノシシは汚臭を好む。これには理由があると先生は言う。イノシシが泥にまみれて転がることを「ヌタを打つ」というが、これは虻蚊を防ぐために身に泥を塗るのだそうだ。ヌタとは泥濘をあらわす言葉だった。それが食べ物にも転用されてマグロのヌタなどというようにもなったが、もともとはヌタナマスといった。泥のようなミソで膾をあえるからそういったわけである。

とかくイノシシには明暗二通りの属性があるわけだが、これを亥年に適用して歳占いをすれば、今年は明暗二通りの世相が見られるだろうということらしい。

歳占いはこの辺にしておいて、小生のことについて二三申し上げたい。昨年は七十歳になったのを記念して、ライフワークのつもりで長編小説を一編書き上げた。これは小生が少年時代を過ごした佐倉の先人依田学海を主人公にしたもので、題名を「学海先生の明治維新」といって、従来のいわゆる薩長史観とは別の視点から明治維新を見直したものだ。諸生には是非一読せられんことを願いたいと思う。

昨年はまた、親しい友人三名とロシアに旅行した。小生は学生時代にロシア語を学んだこともあって、いつかはロシアを訪ねてみたいと思っていたのだったが、その願いがかなって、これでいつ死んでもよいと思ったりしている。その折の旅行記も、小生のサイトにアップしてあるので、興味のある方は参照願いたい。

なお、上の水彩画は、今年の干支であるイノシシをモチーフにして描いたものです。





コメントする

アーカイブ