お気に召すまま:シェイクスピア劇の映画化

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1936年にローレンス・オリヴィエ主演で作られた「お気に召すまま」は、シェイクスピア劇の原作を忠実に再現している。原作は若い男女の結婚を祝福する祝祭劇の性格を色濃く持っており、その男女の駆け引きが森の自然の中で展開される。しかも愛し合うカップルは一組ではなく、四組もある。その四組のカップルが様々な試練を乗り越えて見事に結ばれ、森の中で祝福されながら祝うという原作の雰囲気がほぼ忠実になぞられている。

原作の持ち味にはもう一つ、道化の機知にとんだ警句や、老侯爵とジェイクスとの言葉のやり取りがある。特にジェイクスの言葉「世界は一つの舞台」はあまりにも有名だ。この映画はそうした言葉のやりとりも、嫌味を感じさせないように紹介している。シェイクスピア劇の紹介としては模範的なものだろう。この映画を見れば、原作の持つ雰囲気が大方感得できるはずである。

映画の見どころは何と言っても男装したロザリンドとオーランドーの駆け引きだ。オーランドーの方では変装したロザリンドをてっきり男と思い込んでいるのに対して、ロザリンドのほうはそんなオーランドーをからかいながら、彼に対して抱く恋心を発散させている。そのロザリンドを演じているエリザベート・ベルクナーがなかなかよい。原作では変装したロザリンドは誰からも男として認められるほど男になりきっているが、この映画の中のロザリンドは誰が見ても女のままである。それはエリザベート・ベルクナーがあまりにも女性的すぎるので、男装しても男には見えないからだ。しかしそれは映画を見ている観客にとってのことで、劇中の人物たちはみな彼女を男として扱っている。そこがまた面白い。

ロザリンドの友達シーリアはオーランドーの兄によって見染められ、ついには結婚するのだが、その兄というのが、前半では弟のオーランドーを迫害する悪党として描かれながら、それが後半でいきなり登場してシーリアに恋をしてしまうのだ。その表情はすでに悪党のそれではなく、恋する青年の切ない顔だ。この百八十度の変身ぶりは原作でもあることなのだが、映画の場合には原作以上に突然のこととして迫って来る。そしてそれをもたらしたのは恋の力ということになっている。つまり恋は人柄まで変えてしまうというわけである。

道化のタッチストーンは宮廷では冗談と警句を吐いていたが、森の中に来ると自然の男に変身して、村娘のオードリーに恋をする。恋をする男女はもう一組あって、羊飼いの男が羊飼いの女に懸想するのだが、その女は男装したロザリンドに恋をする。というわけで一時は男女の関係がかなりこんがらがりそうになるのだが、祝祭の席でロザリンドが女の姿で現われると、すべては収まるべき鞘に収まって、ここに四組のカップルがめでたく結婚の祝福を受けるということになる。

そこに始めは悪辣な人間として現われた公爵の使いがやってきて、いままでに兄公爵に対して行ってきた悪事を後悔し、公爵の座も兄に返すと伝える。こうして四組の男女の結婚の祝いに、公爵の復位も重なって、森は喜びに包まれるというわけである。

オーランドーを演じたローレンス・オリヴィエは、この時はまだ二十代の若さだった。彼のその若さがこの映画の一つの見どころだ。






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