イスラエルの右傾化

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先日このブログで、ネタニアフが勝利した背景には、イスラエルのユダヤ人コミュニティが右傾化していることをあげた。その右傾化の実態について、雑誌「世界」の最近号(2019年6月号)に寄せた池田明史の小文が分析している。それによればイスラエルは、もはやネタニアフが穏健な中道に思えるほど、全体として右傾化が進んでいるということらしい。

まず、今回の選挙についての分析から、この小文はイスラエルの右傾化の実態を概観している。今回の選挙では、長年イスラエルの政治の一翼を担っていた労働党が完膚なきまでに凋落した。全盛期には、30-40議席を擁し、投票率も20-30パーセントを維持していたのに、今回はわずかに6議席、投票率は4.4パーセントにとどまった。イスラエルの選挙制度には、投票率が3.25パーセントに届かなかった政党は足切りにするという制度があるため、労働党は遠からず消滅する危険性さえある。そんななかで、左派として残るのは、イスラエル総人口の20パーセントをしめるアラブ系市民を支持基盤とする二つのアラブ政党で、今回はあわせて10議席、8パーセントの投票率を得た。

一方、右派の割合は激増している。今回ネタニアフに対抗した政党「青と白」は、国家主義的な傾向を隠しておらず、中道右派といってよい。ネタニアフのリクードは、明らかな右派であるが、それより右寄りの極右勢力は、今回の選挙で大いに健闘した。「イスラエル我が家」と「右派連合」がそれぞれ5議席を獲得し、足きりによって議席は得られなかったが、極右の新右派党が3.2パーセント、ゼフィート党が2.7パーセントの投票を得ている。これら右派を全体としてまとめれば、有権者の実に八割以上が右派ブロックに投票したことになる。その右派ブロックのうちで、ネタニアフのリクードは、相対的に穏健に見えるほど、イスラエルの右傾化が進んでいるということらしい。

なぜ、こうなったのか。小文はいつくかの要因を挙げている。まず、経済が好調なこと。イスラエルの一人当たりのGDPは日本よりも高く、インフレ率や失業率も低くおさえられている。海外からの投資も順調に伸びている。政治的には、トランプがイスラエルの味方をしてくれるおかげで、安全保障上の脅威も少なくなった。こういった事情がイスラエル市民に自信を与え、全体として右傾化を促しているというのである。この自信は、国内政策にも反映されている。新たな基本法(憲法)には、「主権領域内における民族自決権はユダヤ人によってのみ専権的に行使される」と規定され、非ユダヤ系市民への差別が法規範的に正当化された。いまやイスラエルは、ユダヤ人による人種差別国家に成り下がってしまたわけである。





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