浪人街:黒木和雄

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「浪人街」は、戦前のサイレント映画時代に、牧野省三、正博父子が共同で作った時代劇のシリーズで、三作が作られた。その第一作目を、1990年に黒田和雄がリメイクした。牧野省三の六十回忌記念という名目になっており、戦前の作品を監督した牧野正博が総監修役として加わっている。

天保時代の江戸を舞台にして、安宿にたむろする浪人たちと旗本の確執がテーマだ。あくどい旗本に町奴が挑むという構図は、時代劇の人気のテーマで、幡随院長兵衛ものなどはその代表的なものだが、この映画に出て来る貧乏侍たちは、町人とたいして変わらぬ境遇なので、彼らと旗本たちの闘いは、長兵衛と水野十郎座衛門の闘いを彷彿させるものである。

というわけで、一応は、徳川時代における身分格差を批判するような内容の映画なのだが、堅苦しいイメージはない。主演の原田芳雄以下、浪人たちはみなくだけた性格で、かれらが旗本たちをバッタバッタと切り殺すところは痛快そのものだ。しかし、彼らは無暗に刀を振り回すわけではない、なるべく刀を使わずに下手に出ているうちに、已むに已まれぬ事情に駆られて刀を抜くのである。

その事情というのは、原田が愛していた女、樋口可南子が、旗本たちによって殺されそうになったからだ。しかも樋口の両脚をそれぞれ牛にひかせ、股裂きで殺そうというのだ。彼女が殺されそうになったわけは、旗本たちの首領を銃殺しようとしてしくじったからだ。旗本たちは、日頃宿のヨタカたちを辻切りにして楽しんでいたのだが、そのうち樋口の恩人である宿の亭主を騙して殺した。その仇を討とうとして、返り討ちにあってしまったわけである。

樋口と一緒だった小僧から事情を話されて、すぐに助けにいくように言われた原田は、当初知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、金を払うと言われると、俄然乗り気になる。そこで単身樋口が捕らえられている現場に直行すると、数十人の侍たちを相手に、派手な切りあいを演じるのだ。原田の活躍たるや、スーパーマンも顔負けで、並み居る侍をバッタバッタと切り倒していく。そのうち、日頃から仲良くしていた石橋蓮司と田中邦衛も加わって、旗本たちの勢力を一人残らず退治するのだ。その際、旗本のほうに寝返っていた勝新太郎が、旗本の形勢不利と見るや、旗本の首領を道連れにして自殺、これで旗本陣営は総崩れとなり、一件落着となる次第なのである。

こんなわけで筋書きは他愛ないが、武士が町人を虫けら扱いにするような社会のあり方に、疑問を唱えるような内容になっている。日頃批判的な視点から社会を見ている黒木和雄が、徳川時代の身分格差にかこつけて、同時代の矛盾に目をむけるような内容の映画を作った牧野省三に敬意を表して、リメイクしたというところだろうか。

原田芳雄の演技があいかわらず光っている。日頃は無駄なことには目をくれず、刀を差しているのはアクセサリーとしてだと言っていたものが、いざ正義の怒りにとらわれると、俄然スーパーマンに変身し、悪人どもをバッタバッタと切り倒していく。その戦いぶりが実に痛快である。






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