宮本武蔵:稲垣浩

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稲垣浩は宮本武蔵が好きだったと見えて、何度も映画化している。戦時中の四部作と戦後の三部作がその代表的なものだ。戦後版の三部作は、当時人気上昇中の三船敏郎を武蔵に据え、三国連太郎を相棒の又八にしたもので、三船の野性的な荒々しさを生かした作品だった(三国は、内田吐夢のシリーズでは沢庵坊主を演じている)。

その第一作目「宮本武蔵」は、武蔵が又八を誘って関ヶ原の合戦に参加するところから、敗残兵となって故郷の宮本村に戻り、藩権力によって危機一髪の目に遭いながら、恋人お通の機転で難を逃れ、やがて修行の旅に出立するところまでを描いている。

内田吐夢の武蔵シリーズと比較すると、細部に異同はあるものの、おおむね同じような筋書きだから、だいだい原作にほぼ忠実に作っているのであろう。見どころは、やはり三船の野性味だが、三船の場合には野性味に加え、心のやさしさも感じさせるので、錦之助とはまた違った醍醐味がある。

映画の筋書きは、故郷に戻った武蔵と沢庵坊主とのやりとりが中心で、武蔵が沢庵の計らいによって杉の巨木に吊るされ、それをお通が救ってやるところが最大の見どころだ。お通役は八千草薫で、これはなかなか似合っている。

映画の終わり近くで、吉岡道場の御曹司吉岡清十郎が出て来て、お甲母子と袖を触れ合わせ、第二部への伏線としている。

武蔵は、姫路城への幽閉から解放されたあと、一人修行の旅に出立するのであるが、その際に、沢庵坊主の忠告を無視して、茶屋で働いているお通に会いに行く。その辺は武蔵の人間的な感情を示していていいのだが、その武蔵がお通を捨てて旅立つに際して、橋の欄干に「許してたもれ」を書きのこすところは、ややふがいなさを感じさせる。

ともあれ、娯楽作品としてはよくできていて、観客を飽きさせることはない。





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