少年時代:篠田正弘

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篠田正弘の映画「少年時代」は、井上陽水の同名の主題歌のほうが有名になったが、映画のほうも悪くはない。原作は藤子不二雄(A)の同名の漫画で、大戦末期に疎開した子供の体験を描いている。その体験は、転校生としていじめにあったとか、仲のよい友達ができたとか、子ども同士の勢力争いに巻き込まれたとか、よくある話ばかりで新味はないが、なんとなく観客をいい気持にさせる魅力がある。

藤子不二雄(A)自身の少年時代の体験をベースにしたものらしい。もっともかれはもともと富山県生まれで、父親が死んだ昭和19年に隣町に移住、転向したというから、その転校先での体験がベースになっているようだ。ちなみにここでかれは、生涯の相棒となる藤子不二雄(F)と知り合っている。

映画では、東京に住んでいる少年が、激化する空襲を避けるために、単身父親の実家に疎開させられるということになっている。その学校の五年男組に編入された少年は、ほかの子に比べて体も小さく、いじめの標的になりやすかったが、級長の少年から可愛がられて学校の雰囲気にとけこんでいく。あまつさえ担任教師にも信頼されて、副級長をやらされる。

級長はひとまわり体が大きく、また腕力も強いので、餓鬼大将的な存在だ。少年は、私生活ではこの級長に大事にされるのだが、学校ではわざとぞんざいに扱われる。そんな折に、長らく入院していた元副級長が復学する。この副級長は級長を憎んでいて、なんとかやっつけたいと思っている。なかなか悪智慧が働き、仲間を沢山集めて級長打倒の挙に出る。その打倒の謀議に、少年も又付き合わされるのだ。

級長はついに敵に倒され、周囲には自分の仲間が一人もいなくなったのを知ると、いさぎよく降参し、以後は負け犬のように振る舞う。そんな級長を見ると、いろいろ大事にしてもらった手前もあり、少年は多少の良心の痛みを感じたりもする。しかしあまり潔癖な性格ではないらしく、結局は級長を見放した上、自分がその位置に座るのだ。そんなわけで、子どもながらの権謀術数を感じたりする。

いよいよ敗戦の日がやってくる。少年の叔父はそれを喜んで受け止める。もう、ひどい暮らしをする必要はないのだ。そのうち東京から母が、少年を引き取りにやってくる。少年は、もと級長に別れを告げに行き、出会った記念に、父親から貰って大事にしていたバックルをプレゼントとして置いて来る。もと級長は、弟の面倒を見ていて、少年とは会えなかったのだ。

少年は母親と共に上野行の列車に乗り込む。仲間たちが見送りに来てくれたが、その中にもと級長の姿はなかった。しかしもと級長は、自分だけ離れたところから、列車に乗った少年を見送ってくれたのだ。互いに手を振りあいながら別れを惜しむ少年たちの表情を映しながら映画は終る。その終りのシーンにあわせて、あの陽水の名曲「少年時代」が流されるというわけなのだ。曲はその一度きりしか流れないが、いつまでも続く余韻を残すのである。





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