人生劇場:深作欣二

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尾崎史郎の小説「人生劇場」は、劇的な要素に富んでいることもあり、数多く映画化された。その中で深作欣二が1983年に作ったものは、十三作目にあたるというが、これを最後に映画化されたことはない。いまのところ最後の「人生劇場」ということになる。深作はこの作品を一人で監督したわけではなく、佐藤純弥、中島貞夫との共作である。理由は、劇場公開のスケジュールに向けて時間がなかったこと。それゆえ、全体を三分して、それを三人で並行してとり、時間を節約しようとしたわけだ。しかし映画を見ての印象は、継ぎはぎというふうには見えない。きちんと線が通っている。そこは深作の職人としてのこだわりの産物だろう。

人生劇場というと、男同士の友情がテーマと思いがちで、実際ほかの映画作品はそのように作られているのだが、この映画は男女の性愛を強調している。主人公瓢吉とお袖、飛車角とおとよの間で繰り広げられる男女の愛の営みが、この映画の見どころである。とくにお袖を演じる松坂慶子が魅力的であり、この映画のできは彼女の演技に支えられているところが大きい。また、おとよを演じた中井貴恵は佐田啓二の娘で、中井貴一の姉だそうだが、そう言われて見れば中井貴一によく似ている。

そのおとよは、松方弘樹演じる飛車角とともに、売春宿からとんずらするのであるが、飛車角が出入りの応援で不在の折に、やくざ者に騙されて売り飛ばされてしまう。事情を知った飛車角は大いに怒り、そのやくざ者にお仕置きを加えるのだが、自分自身は豚箱にぶちこまれてしまう、その合間にオトヨを他の男に取られてしまうのだ。そのおとよと飛車角を会わせてやろうとして、若山富三郎演じる吉良常が尽力する。若山はこの映画では、渋い演技を披露している。

主人公の瓢吉を永島敏行が演じているが、飄々としたところに独特の味わいがある。かれのこの映画での見せ場は、早稲田の学生として不正な大學当局と戦うところと、お袖との濡れ場だ。松坂は、決して豊満ではないが、色気のある裸体を披露してくれる。その松坂に負けないようにと、中井のほうも裸体を披露している。それを見た弟の中井貴一が絶句したということだ。

映画は、お袖と瓢吉が決定的に別れるところで終わる。瓢吉のほうでは、まだお袖に未練があるのだが、お袖のほうでは泥に沈んでしまった自分のからだを、再び瓢吉に抱いてもらうことに罪悪感を覚えるのだ。なんとも殊勝な心掛けではある。なおこの映画で小岸照代という名で出て来る女性は、宇野千代をモデルにしているのだそうだ。宇野は生前熱血ぶりで名を流したが、人生劇場の作者尾崎士郎とも男女の性愛関係にあったそうだ。





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