やくざの墓場 くちなしの花:深作欣二

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深作欣二の1976年の映画「やくざの墓場 くちなしの花」は、映画はさることながら、主演俳優渡哲也の歌った主題歌「くちなしの花」のほうが、圧倒的に有名だろう。いまだに歌われている。この主題歌は映画の中では、エンディングのところで一コーラスが歌われるだけで、目立った扱いはされていないのだが、それ自体が独立した歌謡曲として、大ヒットしたものだ。

映画のテーマは、警察と暴力団の癒着だ。それに在日コリアンを絡めている。暴力団同士があいもかわらず抗争を繰り返すところを描いているが、これは全くのフィクションであると断ってはいるものの、モデルはあるのだろうと思う。映画では神戸のやくざと大阪のやくざの抗争ということになっているが、おそらく山口組の大阪進出にともなう抗争だと思う。

大阪府警の刑事と思われる男(渡哲也)が地元のやくざ(梅宮辰夫)と妙な因縁から義兄弟となる。かれの上司たる警察署長は、やくざと深く癒着している。所長だけではない、県警本部までがやくざと癒着しているのだ。そんな中で、神戸のやくざから抗争を仕掛けられた大阪のやくざが、必死の対抗をする。その大阪のやくざに、渡哲也が肩入れするのだが、勢いの差があって、大阪のやくざは敗れ、梅宮ともども渡も死ぬというような筋書きだ。

この抗争では、大阪府警は、地元大阪のやくざをつぶしにかかる。そのことは結果的には神戸のやくざを利することになる。それが渡には許せなくて、自分だけは大阪のやくざに肩入れするのである。しかし府警の連中は、おそらく神戸のやくざと新たな癒着関係を築いているのだろう。強い方に味方するというような雰囲気が伝わってくるように描かれている。

やくざの梅宮は在日コリアンで、組の金庫番をつとめている女(梶芽衣子)は、日朝のハーフだということになっている。二人とも日本人社会に強い意趣をもっている。そんなかれらと渡が、どういうわけで強い絆を結ぶようになったのか。そのあたりは丁寧には描かれていない。渡が演じる人間は、純粋な日本人なのだ。その日本人が在日コリアンと義兄弟の絆まで結んだのは、人間としてひかれあったためか。それとも、大阪府警に代表される、日本人側の腐敗体質に憤ったためなのか。

タイトルにあるやくざの墓場とは、映画のなかで死んでいったやくざたちへのはなむけのつもりか。「京阪神殺しの軍団」という映画のなかで、小林旭演じるやくざが、「わいらには墓場はない」といって、仲間の遺骨を捨てる場面が出て来るが、この映画の中のやくざたちにも、相応しい墓場があるようには思えない。「くちなしの花」のほうは、梶芽衣子演じる日朝のハーフの女をさすのだろう。その女に渡は惚れたのだった。






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