六月の蛇:塚本晋也

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塚本晋也はマンガチックなSFアクション映画からスタートしたが、2002年の映画「六月の蛇」は大分趣向の変った作品だ。これは欲求不満の女と、彼女にしつこくつきまとうストーカーの話なのだが、それが、本来はエロチックなのにかかわらず、あまりエロチックな側面は前面化せず、人間の愚かさというか、こういうことにならないよう気をつけましょうといった、妙な教訓を感じさせる映画なのである。

主人公の人妻(黒沢あすか)は、悩み事電話相談の相談員をやっている。ある時一人の男の相談に乗ったのだが、その男からストーカー行為の標的にされる。それがかなり変態的なのだ。男はどういうわけか、その人妻のプライベートな姿を写真にとっていた。なかには彼女がマスターベーションに耽るものがある。そうしたいかがわしい写真を彼女に送り付けて、自分の意思に従わせようとする。それはノーパンの上に極度に短いスカートをはかせて、路上やデパートを歩かせるといったもので、当然のこと彼女の陰部が通行人の目にさらされることとなる。また、その格好で大人のおもちゃの店に入らせ、電動こけしを買わせたりする。電動こけしは、ペニスの代用品で、マスターベーションの道具にもなる。

彼女がマスターベーションに耽るのは、欲求不満のためだ。亭主は仕事にかこつけて、彼女を抱いてくれないのである。そこで欲求不満に陥った躰をしずめるために、彼女はせっせとマスターベーションをして、その姿を盗撮されてしまうのである。

当初彼女は、ストーカーの指示にいやいやながら従っていたのだが、そのうちあまりいやにならなくなり、したがって羞恥心も失っていく。その挙句に、自分のほうからストーカーに電話をしたりするようにもなる。そうしているうちに、相手のストーカーは癌で死にそうだというし、自分自身も乳がんにかかっていることがわかる。それを最初に指摘したのはストーカーなのだ。そのストーカーは、彼女の乳房にしこりらしいものがあるのを見て、それを乳癌だと判断したのだ。

自分が死ぬ運命だとわかると、彼女はいよいよ大胆になる。最後には、亭主を励まして勃起させ、激しいセックスをすることに成功する。彼女の本当の希望は心置きなくセックスをすることだったのだ。そんな彼女の希望を真にわかっていたのはストーカーだったというのが、この映画の、唯一まともらしきメッセージである。そこがこの映画を教訓的だといった理由だ。塚本晋也自ら演じるストーカーの男は、「妻を喜ばせるのは夫のつとめだ」と強調するのである。

この映画は、諸外国で評判になったそうだ。ただのエロ映画ではなく、メッセージ性に富んでいるというのがその理由だったらしいが、そのメッセージというのがいかにも日本的だということのようだ。日本人の夫は妻に対する当然の義務を怠っている、ということを、この映画は世界中に向って白状しているというわけである。

なお彼女を盗撮していたストーカーの男は、彼女が住んでいるマンションのオーナーだというメッセージも流れる。そうでなければ、こんなすさまじい姿を盗撮することはできないだろう。





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