鉄男:塚本晋也

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塚本晋也の1989年の映画「鉄男」は、ちょっとした反響を呼んだ。ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリをとったこともあって、国際的な反響にも発展したようだ。映画ならではのファンタジーを感じさせるからであろう。この映画は、スクラップ鉄になった男の話なのである。小説の中では、カフカが、巨大な虫になった男の悲哀を描いて世界中をびっくりさせたが、塚本は映画の中で鉄になった男を描いて、人々をびっくりさせたのである。

男がスクラップ鉄になってしまうのは、ある男の呪いのためだ。その男は映画の冒頭に出て来て、自分の肉体改造をはかるのだが、傷つけた肉体部分からうじが湧いてきて、びっくりして外に飛び出たところを車にはねられてしまう。そのはねた男を、はねられた男が呪うというわけである。

呪われた男は、最初自分の顔の一部が硬直してくるのを感じるが、そのうち顔がどんどん鉄に変化してゆく。いちばんすごい変身は、ペニスが巨大な鉄製電動ドリルのようなものになってしまったことだ。それでは恋人とセックスもできない。実際男は恋人の陰部を電動ドリルで突きまわし、悩殺してしまうのである。

そんな男の前に、かれを呪った男があらわれて、一対一の闘いをする。というのがこの映画の筋書きである。筋書きと言っても、そんなにドラマ性があるわけではなく、ただひたすら鉄に変身してゆく過程が追われるだけなのである。

カフカの変身にはあらゆる意味が拒絶されていたが、この映画の中の変身は、殺された男のノロイというわかりやすい理由がある。そう言う点では、意外性に欠けるかもしれないが、人間が鉄のスクラップに変身するというのが、だれにも思いつかないような意外なアイデアといえなくもない。

冒頭で肉体改造をはかる男を、監督の塚本自身が演じている。鉄男を演じた田口トモロヲは、エロ漫画作家として出発したというユニークな人物だ。なんとなくエロチックな表情をしている。それが鉄に変身するわけだから、観客は不思議な気持ちになるというわけだ。





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