カリスマ:黒沢清

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タイトルにある「カリスマ」とは、謎の樹木の名称である。その謎の樹木に多くの人々が翻弄されるさまを描いているこの映画は、実に奇妙な印象を与える。樹木をめぐって人間同士が対立しあうとも、また樹木が人間を罰しているとも解釈できる。人間同士の争いはよくあることで、それには色々な理由があり、その理由の一つに謎の樹木があってもよい。また、樹木が人間の不遜さを罰するという意味では、現代的な黙示録とも解釈できる。どちらにしても奇妙な映画である。

主人公は役所広司演じる刑事である。その刑事は、人質をとった犯人を追いつめる過程で、犯人も人質も死なせてしまう。そのことを上司から非難されて、しばし休暇をとるように命じられる。傷心した刑事は一人旅に出かけるのだが、その旅先で不思議な木に出会う。その木は、猛烈な毒をまき散らしていて、周囲の植物を悉く枯らせてしまうのだ。そこで保安林当局がその木を伐採しようとするのだが、一人の異様な若者がその木を守っていて、木に近づく者を悉く撃退する。その両者の間に挟まれるかたちで、刑事は事件に巻き込まれていく、というのがこの映画の基本プロットである。

以上の対立する両者のほかに、植物学者の女性とその妹というのが出て来て、これが一枚からんでくる。姉のほうは獣の罠にかかった刑事を助けてくれた因縁だが、彼女は植物学者としての立場から謎の樹木の伐採を企んでいる。妹のほうは、刑事を火災に陥った車から助け出してくれたのだが、実は刑事に興味を覚えて、かれを誘惑するために車に火をつけたらしいのである。

こういう具合に人物像が複雑に絡み合っているのだが、もっとも複雑な人物像は、樹木を守ろうとしている若者である。その若者は、世話になった病院長の意思を継いだと言っているが、その病院長とはどうやら精神科の医師で、かれはその患者だったようなのである。かれはいまでもその病院の廃墟に、院長の未亡人と住んでいる。未亡人は寝たきりの状態なのだが、時には置きだして、刑事を自分の夫と勘違いしたりする。

こんな設定で話は進んでいき、クライマックスでは、樹木をめぐって以上三者、保安林当局とその関係者、謎の樹木を守る若者、そして植物学者の姉妹の間で、樹木の奪い合いが行われる。その結果姉妹が樹木を奪い、それに火をかけて燃やしてしまうのだ。

映画はそこで終わってもよいのだが、後日談が長々と紹介される。謎の樹木を失った刑事が、別の樹木をその代理に選び、その世話を始めるのだ。その姿を、他の連中は軽蔑する。若者はこんなものを世話するのは無意味だというし、植物学者はただの枯木だと言ってバカにする。その挙句に、その樹木を爆破しようとする。それに対して刑事は、どういうわけか協力する。つまり自ら進んでその枯木を爆破するのだ。

こういうわけで、どうもとりとめのない内容の映画である。そのとりとめのなさが評判になって、映画界からは結構高く評価されたし、海外での評判も高かった。






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