書き物をする聖ヒエロニムス:カラヴァッジオの世界

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「書き物をする聖ヒエロニムス」は、カラヴァッジオがボルゲーゼ枢機卿への贈り物として描いたものだ。それにはワケがある。1605年の7月に、カラヴァッジオは傷害事件を起こしたことでジェノヴァに逃走するハメになった。相手は公証人のマリアーノ・パスクワローネ。原因ははっきりしないが、女をめぐるいざこざだったとの指摘もある。結局カラヴァッジオは、パスクワローネと示談してローマに戻ることができた。その示談の成立に、ボルゲーゼ枢機卿が一役かった。カラヴァッジオはそのお礼に、この絵を贈ったというのである。

ボルゲーゼはまだ27歳の若さだったが、ボルゲーゼ家のパウルス五世が教皇に即位したおこぼれで枢機卿になれたのだった。美術に並々ならぬ関心をよせ、以後カラヴァッジオのパトロンとなった。この絵の中の聖ヒエロニムスは、そんなボルゲーゼ枢機卿をシンボライズしたものだ。なぜなら、聖ヒエロニムスの着物である赤いマントは、枢機卿の着るものでもあったからだ。

もっともこの絵の中の聖ヒエロニムスは、二十代の若者ではなく、老人として描かれている。しかも丸禿の老人である。その老人が、テーブルの上に聖書らしい書物を広げ、なにやらメモを取ろうとしてペンを持っている。そのペンの先にはしゃれこうべが置かれているが、しゃれこうべも聖ヒエロニムスのシンボルである。

この絵のなかの老人は、「聖母マリアの死」のなかで、横たわる聖母に一番近いところにいる老人と非常に似ている。おそらく同じ人物をモデルにしたのであろう。

(1606年頃 カンバスに油彩 112×157㎝ ローマ、ボルゲーゼ美術館)







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