蛇の聖母:カラヴァッジオの世界

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ジェノヴァからローマにもどったカラヴァッジオは、教皇庁の馬丁組合から絵の注文を受けた。完成すれば、聖ピエトロ聖堂に展示されることになっていた。画家としては、聖ピエトロ聖堂に自分の作品が展示されることは最高の名誉と考えられていた。カラヴァッジオにとってもそうだったにちがいない。かれはそれまで何度も、聖ピエトロ聖堂のための仕事をしたいと思いながら、実現しなかったのだ。

構図は、暗黒の背景から浮かび上がった聖母子が蛇を踏みつけ、それを聖母の母アンナが見守っているというもの。聖アンナは、教皇庁馬丁組合の守護神とされていた。また、蛇は邪悪の象徴であり、それを踏みつける構図は、悪をこらしめるキリストをあらわしている。

この絵は、完成後一旦は聖ピエトロ聖堂に展示されたが、いくばくもなくして受領を拒否されてしまった。理由は明かではないが、モデルの描き方が気に入らなかったようだ。聖母の母聖アンナが醜い老婆として描かれており、キリストも成長しすぎている。だいたいこの手の絵の中のキリストは、思いっきり幼く描かれるか、成熟した姿で描かれるか、どちらかである。この絵の中のキリストのように、中途半端な年齢で、しかも裸で描くのは不謹慎だと受け取られた可能性がある。

聖ピエトロ聖堂に飾られることにならず、カラヴァッジオ本人は大いに落胆したはずだが、それをボルゲーゼ枢機卿がひきとってくれた。ボルゲーゼ枢機卿はその後も、機会を見てはカラヴァッジオの作品を集めるようになる。それらの作品は、いまでもボルゲーゼ美術館を飾っているのである。なお、この作品は、カラヴァッジオのローマ滞在時最後のものとなった。かれはこの直後に殺人事件を起こし、ローマを追われる身になるのである。

(1606年頃 カンバスに油彩 292×211㎝ ローマ、ボルゲーゼ美術館)






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