アウシュヴィッツのゾンダー・コマンド

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NHKの歴史を検証する番組が、アウシュヴィッツで生きていたゾンダー・コマンドを特集した。ゾンダー・コマンドとは、強制収容所において、ナチスに協力して、ユダヤ人の殺害に従事した人たちのことだ。カポとも呼ばれる。ユダヤ人の同僚を殺害したユダヤ人のことだ。そのゾンダー・コマンドの残した文章が、戦後アウシュヴィッツの地下から発見された。それらの文章を書いた紙はガラス瓶に入れられていたが、なにぶん損傷が激しくて判読困難だったものが、最近のデジタル技術の向上で、なんとか判読することができるようになった。番組は、判読された内容をもとに、ナチスの強制収容所の実態と、そこで生きていたゾンダー・コマンドたちの気持を推測していた。それを知るにつけても、人間という生き物のおぞましさを思わされたところだ。

とにかくすさまじいおぞましさが伝わって来る。それはなかなか文章で表現できるものではない。小生としては、かれらゾンダー・コマンドたちが置かれていた状況については、ただ観念的な感情移入ができるに過ぎない。今回紹介の対象となったゾンダー・コマンドには生き残ったものがいて、かれは生前ナチスに復讐するために、告発の文章を残すのだと書いていたが、奇跡的に生き延びた後では、自分のゾンダー・コマンドとしての体験を語ることは一切なかったという。それほど過酷な体験だったのであろう。

ゾンダー・コマンドの存在が、世界中に明らかになったのは、ハンナ・アーレントがアイヒマン裁判についてのルポルタージュのなかで指摘したからだった。アーレントは、同じユダヤ人がユダヤ人の殺害に手を貸していたことを指摘したのだったが、それが世界中のユダヤ人のヒステリックな反発を呼んだ。アーレントは民族の敵との烙印を押され、ユダヤ人社会から完全に排除された。日頃親しくしていたユダヤ人のほとんどすべてが彼女を拒絶したので、アーレントは心に深い傷を負ったくらいだった。

この番組の中で、アウシュヴィッツの一角に積み上げられたユダヤ人の死体をうつした写真が出て来る。それはおそらく、2001年に公開された写真の一部だろう。その写真は、一人のゾンダー・コマンドによって撮影され、ポーランド人に寄託されていたものだった。その写真は世界中にショッキングな反響を生んだ。その反響の一つの形として、2015年に「サウルの息子」というハンガリー映画が作られた。その映画を見ると、絶滅収容所の非人間的な残酷さが、視覚的に伝わって来る。

番組は、アイヒマン裁判の被告が、自分は一人もユダヤ人を殺していないと弁明するシーンを映し出していた。じっさいその通りなのである。ユダヤ人を直接殺害したのは、同じユダヤ人だったのだ。ユダヤ人にユダヤ人を殺させることで、ドイツ人は、いくぶんか良心の呵責を免れたわけだ。

この番組からは、ユダヤ人の被害感情が強く伝わって来る。それはそれで理解できるのだが、しかしそのユダヤ人の子孫たちが、パレスチナ人に対して、自分たちが被ったのと同じようなことをしているわけである。そのことを、日本人の小生が非難できる筋合いではないかもしれない。日本人も、加害者としての立場を棚上げして、被害者としての苦しみを語るのに熱心なところがあるから。






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