ロゼッタ:ダルデンヌ兄弟

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ジャン=ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌはベルギー出身の映画監督で、兄弟で映画作りをしている変わり種である。カンヌでパルム・ドールをとった1999年の映画「ロゼッタ(Rosetta)」は、かれらの代表作といってよい。ベルギーの下層社会で必死に生きる女性を描いている。

どの国にも下層社会はあるものだが、この映画に出て来る下層社会は、これが先進国といわれるベルギーの一部かと思わされるほど、悲惨なものである。一応先進国であるから、後進国のスラムのような陰惨さはないが、それでも十分ショッキングだ。家を持てない母子がキャンプ場のトレーラーのなかで暮らしている。それには持ち主がいて、居住者から水道の水付きで借用量をとっている。日本で言えば貧困ビジネスにあたるものだ。

母親は自堕落で、売春をしてしのいでいる。娘のほうは、しっかりした職について、人並みに安定した生活をすることが夢である。しかし彼女はなかなかそうした職にありつけず、次第に袋小路に落ち込んでいくことを恐れている。この映画は、そんな彼女の焦燥感を描き続けるのだ。

映画は彼女が工場をクビになるところから始まる。納得できない彼女は体を張って抗議するが、いかんともしがたい。別の仕事を求めて町を歩き回っている間に、さる店で一人の店員に出会い、その店員の手引きで彼のつとめている店に職を得ることができる。しかしその職も、わずか三日で失ってしまう。再び無職になった彼女は、絶望的な気分に陥るのだ。

その挙句に、店員の不正を店主に影口する。それによってその店員をクビにさせ、自分がその後釜に納まろうというのだ。じっさい彼女は再び雇ってもらうのだが、クビになった店員に負い目を感じずにはいられない。というのも、その店員は、彼女に仕事の世話をしてくれたのだし、またなにかとやさしくしてくれた。決して彼女の体が目当てなのではない。その店員は、彼女を自分の部屋に泊めても、セックスを無理強いしたりしないのだ。その点は紳士的なのである。一部の日本人のように、女を押し倒したり薬を飲ませて意識をなくさせて、強姦に及ぶようなことはしない。そんな紳士的な青年を彼女は裏切ってしまったのだ。

映画は、彼女が自ら仕事をやめ、また青年からの抗議に耐え忍ぶ表情を映し出しながら終わる。その後かれらがどうなるのか、それは観客の想像におまかせする、といったメッセージが伝わって来るのだ。

とにかく救いのない映画である。こんな映画を見せられると、豊かと言われるベルギーのような国でも、格差が広がっており、その隙間に飲み込まれる人々がいるのだということを思い知らされる。






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