トニー滝谷:市川準

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市川準の2005年の映画「トニー滝谷」は、村上春樹の同名の短編小説を映画化したものである。原作にほぼ忠実で、違う所はエンディングに多少の演出が加わっていること。原作はトニーが天涯孤独の身になったところで終わるのだが、映画では妻のかつての恋人が登場していやみをたらたら言ったり、トニーが女を解雇したことを後悔するシーンが加わっている。これらは小説としては全く不要なものだが、映画には、全体を引き締める効果があるかもしれない。

西島秀俊によるナレーションが主体で、その合間に登場人物の独白が加わるといった具合だ。だから、映像付きの朗読と言ってもよいくらいだ。その朗読は、小説の冒頭の言葉「トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった」で始まる。その調子で最後まで続くというわけである。

小説は非常に静かな印象を与えるが、映画もそれを生かしている。市川の映画には、もともと静かな雰囲気が漂っているので、この小説を選んだのは正解だったと言えるのではないか。

トニー滝谷とその父親滝谷省三郎をイッセー尾形が一人二役で演じ、妻と妻の身代わりの女を宮沢りえがやはり一人二役で演じている。二人ともはまり役と言ってよい。とくに尾形は、どことなく村上春樹のような雰囲気を感じさせる。村上本人は饒舌な所があるようだが、小説の中のトニーも、この映画の中のトニーも物静かだ。

小説では、青山あたりの東京のファッションタウンの雰囲気が強調されているが、映画では町は後景に退いている。主人公はあくまでも、尾形と宮沢の演じる生きた人間だ。






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