オカンの嫁入り:呉美保

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呉美保の2010年の映画「オカンの嫁入り」は、母娘の情愛を中心にした人情劇である。監督の呉美保は在日韓国人だが、日本で育ったこともあり、日本人の人情をよくわかっている。この映画はそうした呉の目から見た日本人の人情のあり方に、それへの多少スパイスをきかせた批判を込めて、日本の庶民、それも関西に暮らす庶民の生き方を、ウェットなタッチで描いたものだ。

大竹しのぶ演じる母親と宮崎あおい演じる娘に、かれらの周辺の人物像、母親の婚約者研二、母親が看護婦としてつとめる整形外科医の院長、母親が住まう借家の大家、これに飼い犬のパグが加わって、関西人の人情劇が展開される。

或る深夜、床についている娘を母親が玄関を叩いて起こす。娘が玄関に出てみると、母親は泥酔しており、一人の若者を連れている。お土産だというのだ。後で聞いてみると、母親はこの若者からプロポーズされ、結婚してこの家で一緒に暮らすつもりだと言う。びっくり仰天した娘は、とても受け入れられないと言う。だが母親の決心は固い。若者のほうは、娘に対して恐縮しながらも、母親には婚約者らしく振舞うのだ。

混乱した娘は、家出して大家の世話になる。大家は庭を隔てた隣に住んでいるので、家出とはいっても、そう大袈裟なことにはならない。娘はまた、母親の雇い主である院長にも相談する。娘はこの院長を父親のように慕っており、母親が再婚するなら彼と再婚してもらいたいと願っていたのだった。ところが院長は、すでに二回もモーションをかけたが、いずれも断られた。理由は君の存在だった、と打ち明けられる。そのうえで、母親の老いらくの恋をあたたかく見守ってやれと忠告される。

母親とその婚約者の動向を注意深く観察していた娘は、かれらの間がすでに離れがたくなっており、しかも若者に誠意が認められることもあって、次第に心を開いていく。そしてついに彼らの結婚を受け入れるのだ。そんな娘に向って母親は、是非白無垢の衣装を着てみたいという。ついてはあんたもいっしょに立ち会ってほしい、そういわれた娘は母親の衣装合わせに立ち会う。その席で母親は昏倒してしまうのだ。

運び込んだ病院の医師から、娘は母親の病状を聞かされる。母親は末期がんにかかっており、余命一年ほどだというのだ。母親はその事態を十分に踏まえたうえで、人生最後の時間を自分の思い通りに、後悔のないように生きたい。そんな決意を聞かされた娘は、いよいよ母親の結婚に理解を示すのである。そんな娘を母屋は、母親なりに気づかっている。娘は以前、会社の同僚とのトラブルがもとで、世の中に対してトラウマのようなものを抱えていたのだ。そのトラブルというのは、同僚の男からストーカー行為を仕掛けられたあげくに、会社から守ってもらえず、かえってやめされられたというものだった。つまり会社がセクハラに加担して、被害者を迫害したのである。

これは、物語の筋からいえば、なくもがなのことともいえるが、あえてこれをエピソードとして挟んだのは、セクハラ天国と言われる日本社会への、呉なりの問題意識のあらわれだともいえよう。

この映画に主演した宮崎あおいは、現在の日本の映画界を代表する女優で、高齢者層を中心に根強い人気を誇っている。この映画はそんな宮崎の女優としての名声を確立するうえで大きく働いた作品だ。






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