トランプがあぶり出したアメリカ民主主義の脆弱さ

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今回のアメリカ大統領選挙では、現職の大統領であるトランプが、根拠もなく選挙の不正を訴え、なかなか敗北を認めなかったが、ついに敗北を認めたようで、バイデンへの政権移行に妥協する旨を表明した。その言い方には玉虫色の所もあり、不正の追及は引き続き行うなどと強気なことも言っているが、事実上の敗北宣言だと大方には受け取られている。それを踏まえて、今回の事態はアメリカの民主主義が機能した証拠だとする意見が圧倒的だ。だが、中には否定的な意見を言う者もいる。今回の事態は、アメリカ民主主義の脆弱性を衆目の前にさらしたと言うのだ。

英紙ガーディアンに寄せられた小論(Trump's coup failed - but US democracy has been given a scare By Julian Borger)はその代表的なものだ。タイトルから推し量られるように、この小論は、アメリカの民主主義がトランプによって脅威を蒙ったという主張をしている。その脅威は深刻なもので、クーデタの試みと言ってよかった。もしそのクーデタが成功していたら、アメリカにはトランプの独裁政治が実現していたかもしれない。今回そういうことにならなかったのは、ラッキーな偶然が重なったためで、決してアメリカの民主主義が盤石なせいではない。今回は無事に済んだが、将来トランプに似た別の指導者が、今回のことを教訓にしてクーデタを図れば成功するかもしれない、とこの小論は警告している。

アメリカの民主主義が機能しているのは、制度そのものよりも、それを動かす人々が制度に忠実なためだ。だから制度を無視する人が出て来ると、制度そのものが働かなくなる可能性が高くなる。今回はまさにその例証となった。トランプは、アメリカの民主主義をあざ笑い、それを支えている制度の盲点をついて自分の利益を図ろうとした。その試みは成功しなかったわけだが、それはトランプにも盲点があったためだろう。トランプが制度の盲点を十分に研究して、万全を持して臨んでいたなら、あるいはトランプのクーデタは成功していたかもしれない。

クーデタを起すつもりなら、あらかじめ権力を構成するメンバーを自分の意のままになる人間で固めなければならぬし、アメリカの国民にも心の準備をさせなければならない。今回トランプはそのいずれにも失敗したということだろう。国防総省はトランプの言うままにはならなかったし、アメリカ国民はブラックライヴズマター運動などを通じて、トランプの強権主義的な姿勢を牽制した。そうした動きがトランプの野望をくじかせたとみてよい。だから今回は、アメリカの民主主義が機能してトランプの野望を阻んだというより、かなり偶然なことがらが重なって、トランプの野望が実現しなかったと考えた方がよい。そうした偶然性がコントロールされれば、トランプの野望が実現されないという保証はないとみるべきなのだ。





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