ウルカヌスの鍛冶場:ベラスケスの世界

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ベラスケスは、1629年7月頃から約一年半の間イタリアに旅した。フェリペ国王の裁可を得たもので、国庫の援助を受けていた。目的は、ベラスケス本人の美術研修と、現地における美術品の買い付けであった。ティントレットやティツィアーノの作品など20点あまりを買い付けている。

バルセロナから乗船し、ジェノヴァに上陸して、ヴェネツィア、フェラーラを経て、秋ごろローマに到着、そこで一年あまり美術研修にいそしんだ。当時のローマは、カラヴァッジオの遺産ともいうべきバロック美術が花開いていた。ベラスケスはそれらの画風を学ぶ一方、ミケランジェロをはじめとしたルネサンスの古典主義の傑作にも多く学んだに違いない。

ベラスケスは王室画家の肩書があるため、単に画家としてのみならず、外交使節並みに処遇された。実際ヴァチカン内に居室を与えられ、美術品の自由な鑑賞や模写を許されたのであった。

ローマ滞在中にベラスケスの制作した作品はわずか5点である。物語絵2点、風景画2点、肖像画1点、肖像画を除けばいずれも注文ではなく自主的に描いたものであった。

「ウルカヌスの鍛冶場」と題されたこの絵は、物語絵のひとつ。ギリシャ神話に題材をとっている。太陽神アポロが、ヴィーナスの不貞を夫のウルカヌスに密告すべく、かれの鍛冶場にやって来た時の様子を描いている。左端の光輪に包まれているのがアポロ、その右手で驚いた表情を見せているのがウルカヌス。そのほかの人物も、それぞれ驚きの感情を見せている。

(1930年頃 カンバスに油彩 223×290㎝ マドリッド、プラド美術館)






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