イラン核科学者殺害はネタニヤフのバイデンへの牽制

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イランの核科学者モフセン・ファフリゼデが殺害された事件は、状況証拠からしてイスラエルの仕業と思われている。なぜそんな無法なことをしたのか。イスラエルはイランの核開発に脅威を感じており、それをマヒさせるために、イランの核開発をリードしてきたファフリゼテを殺害したのだろうとする見方が流通している。この殺害に対して、イラン側がすくさま報復を声明するなど、過剰な反応を示したことがそれを裏付けていると見られてもいる。

しかしイランの核開発はすでに基本的なプロセスを終えており、いまさらファフリゼテを殺しても、たいした影響はないようである。イランにとって目下の課題は核爆弾の原料の確保であり、そのため、トランプがイラン合意から離脱すると、公然とウランの濃縮に取り掛かった。

そのことはネタニヤフも十分知っているはずだ。にもかかわらず今回の殺害を決行したのは、バイデンへの牽制だろうとみられる。バイデンは、自分が副大統領の時に始めたイラン核合意を再開したいと言っており、その中でイランへの一定の譲歩をするつもりのようだ。それがネタニヤフには気に入らない。バイデンのそういう気勢をそぐために、イランをめぐる事態を混乱させ、バイデンのイラン寄りの姿勢を牽制したいというのが本音だろう。

ネタニヤフが怖れているのは、核兵器の開発はともかく、イランが軍事能力を飛躍的に高めていることだ。先般、サウジの油田をドローンで攻撃したが、それには高度な軍事技術が認められた。そのドローンは、イスラエルのレーダー網もをくぐり抜けるほどの性能を持っていた。それをイランがシリアやイラクに輸出して、一斉に攻撃を仕掛けられたら、さすがのイスラエルも甚大な打撃を免れない。そうした危機感が、ネタニヤフに今回の殺害を決行させたのだと思われる。

今回UAEやバーレーンなどがイスラエルと国交を結び、またサウジもイスラエルに接近する動きを見せている。それらはイスラエル贔屓のトランプが斡旋したということもあるが、基本的には、イランの脅威に対して防衛線を構築する動きと見てよい。イスラエルの最大の敵はイランだ。そのイランの脅威を前に、イスラエルと共同戦線を張ろうということだろう。これまでは、パレスチナ問題をめぐってイスラエルと対立してきたアラブ諸国が、そのイスラエルと協力しようというのは、イランの脅威が飛躍的に高まったことを背景にしている。今や、アラブの大義より、自国の防衛が一義的な関心事なのだ。

中東をめぐるそうした状況の変化に、今後バイデンがどのように対応するか。事態の進展を注視したい。





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