画家の安野光雅が94歳で死んだそうだ。小生は安野の大ファンで、画集はだいたい買い揃えてある。また毎年のカレンダーには、いわさきちひろのものと並んで、安野のシリーズものを壁にかけて楽しんでいる。
安野の絵は、巧妙なだまし絵や細かい線描による精巧な画風のものが人気があるようだが、小生は風景画が好きだ。外国の風景を描いたものに傑作が多いが、故郷の津和野を描いたものも捨てがたい。ぼかしをきかせたモヤッとしたタッチの絵が特に好きだ。
安野はまた味のある文章もよくした。絵の技法にかんするアドバイスには世話になったものだが、軽妙なエッセー風の文章もなかなか読ませる。中には「我が谷は緑なりき」などという洒落た題名のエッセー集もあったが、あれはたしか少年時代を回想したのではなかったか。安野が生まれ育った津和野は、かの鴎外漁史が少年時代を過ごした町だ。小生も訪ねたことがあるが、掘割を我が物顔に泳ぎまわる緋鯉が印象に残っている。
死因は肝硬変だったそうだが、94歳といえば大往生といってよい。中には百歳を超えて生き続ける者もいるから、安野としては不本意だったかもしれないが。ともあれ、いまひとり小生の好きな人が往生したわけだ。その死を悼みたいと思う。
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