二人日和:野村恵一

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2004年の映画「二人日和」は、年老いた男女の夫婦愛を描いたものである。不治の病に冒された妻を、夫が献身的に介抱しながら、互いの愛を確認しあうというような内容だ。内容そのものは、きわめて平凡だが、その平凡な内容が、美しい画面とゆったりとした時間感覚の中で展開されると、心を洗われたような気持になる。

とにかく時間がゆったりと流れている。テーマは死であるから、時間は切迫しているはずなのだが、かえってゆったり感じられるのは、野村の時間への特殊なこだわりがさせるわざだろう。こういう時間感覚を映画に持ち込んだ人として川瀬直美があるが、野村もまたその路線を共有しているのだと思われる。

主人公は、京都で和服屋を営む老夫婦。その和服屋は、映し出される街並みを見たところ、西陣あたりだと思われる。北野天神も出てくる。川も出てくるが、これはどこの川だろうか。西陣の近くを流れる川といえば堀川だが、これは堀川ではないようだ。

藤村志保演じる妻が、不治の病にかかる。筋肉の病というから、ALSとか筋ジストロフィーといった難病だろう。医師からは長生きできないと言われる。最悪の場合半年くらいの命だと言われるのだ。そこで、栗塚明演じる夫は、なにもかも投げ出して、妻だけのために生きようと決意する。かれらは仕事の忙しさにまぎれて、夫婦らしい触れ合いに乏しかったのだったが、残された短い時間を、夫婦の間の愛を追及することに費やしたい、そう互いに考え、最後の時間を二人で過ごすのである。

その二人の間に、手品が好きな青年が加わって、二人の暮らしに彩をもたらす。妻は手品を見たり試したりして病の痛みを忘れようとし、夫はそんな妻の他愛ない喜びを自分の喜びとして味わう。だが、そんな喜びは長くは続かない。妻は、病の痛みに苛まれながら生涯を閉じるのである。

こんな具合に、筋書きとしては単純だが、独特の情緒がこもっていて、実に味わい深い作品になっている。傑作と言ってよいのではないか。






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