リアル 完全なる首長竜の日:黒沢清

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黒沢清の2013年の映画「リアル 完全なる首長竜の日」は、SFタッチのミステリー映画である。SFタッチというのは、二人の人間の間で意識を共有するという設定だからであり、ミステリーというのは、わけのわからぬ怪物(首長竜)が現実世界に登場して大活躍するからである。そういう意味合いでは、純粋の娯楽映画といってよい。肩の凝らない作品である。

意識を共有するというのは、要するにテレパシーのことだと思うが、映画の中では「センシング」と言っている。これだと感覚を共有するという具合に狭い意味合いになるので、テレパシーあるいはアウェアネス・シェアリングと言ったほうがいいだろう。

いくつかのどんでん返しが込められている。当初は、自殺未遂で意識不明になった妻を、夫がセンシングを通じてアクセスするということだったが、実はそうではなく、意識不明の夫を、妻がセンシングを通じてアクセスしていたということに切り替わる。二人は意識を共有しているわけだから、その意識のなかでは、夫と妻の区別は本質的ではないというわけであろう。

映画のラストシーン近くで首長竜が登場し、夫に襲い掛かる。これは昔事故で死んだ男の子の亡霊のようなもので、その亡霊は夫ために死んだと思い、復讐のために現われたのであった。またその亡霊の主は、子どもの頃の妻に恋心を抱いており、その恋人を奪われたことへの恨みがあったということになっている。かなり人間的な感情をもった怪物なのだ。

センシングは体力的な負担が大きいらしく、夫は一旦は心肺停止の状態になる。俗に言う臨終である。ところが妻はあきらめず、センシングを通じて夫の深い意識に働きかけ、現実世界に連れ戻すのである。

こんな具合にかなり荒唐無稽な設定の映画であり、あれこれむつかしいことを考えずに見たほうがよい。






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