最初の人間:カミュの自伝的回想

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2012年のフランス映画「最初の人間(Le premier homme)」は、アルベール・カミュの同名の自伝的小説を映画化したもの。カミュは1960年に交通事故で死ぬのだが、その際にカバンの中から小説の草稿が発見された。それがカミュの死後34年後に刊行された。この映画はそれを原作としたものである。

1957年ごろの、アルジェリア独立戦争を舞台に、カミュが少年時代を回想するという設定。カミュはアルジェリアに生まれたのだが、支配階級のフランス人であり、現地人からは打ち解けてもらえなかった。また、父親が若くして死んだりして家が貧しかったので、フランス人としても中途半端だった。だからカミュは、自分自身のアイデンティティに不安定なものを感じていたらしい。その不安な感じが、この映画ではよく描かれている。

貧しいながらも、奨学金を貰って高等教育を受けることができたカミュ(映画ではコルムリとなっている)は、独立戦争で騒然としているアルジェリアに戻ってくる。日本で言えば、錦を飾るというところだろうが、クレオールのカミュにとって、アルジェリアは居心地のいいところではない。なぜそうなのか。それは少年時代における、アルジェリアの体験に原因があった。その少年時代の体験をカミュはなつかしく思い出すのだ。なにしろ愛する母親とか、世話になった恩師と会うことができたのだ。それらの人々と交流を暖めながら、カミュは少年時代を回想するのだ。映画の大部分は、その回想からなっている。

色々と辛いことがあったが、もっとも辛かったのは、アラブ系の子どもたちから疎外されたことだ。その子どもの一人と久しぶりに対面したカミュは、かれの息子が独立戦争にかかわって逮捕され、死刑判決を受けたと聞き、その救済のために一肌脱ぐ。ところが独立運動の大儀を大事にする息子は、いさぎよく刑に服することを選ぶ。カミュの努力は実らないのだ。

そんなわけで、回想の中で辛いことが連続するのと平行して、現実の世界でも辛い事態が進行する、といった内容の、暗い感じの映画である。

タイトルの「最初の人間」が何を意味するのか、よくわからない。アダムとイヴではなく、カミュ自身にかかわることらしいのだが、それが何なのかは伝わってこないのだ。






コメント(1)

映画も見ずにコメント、申し訳ありません。
戯曲『正義の人々』のカリャーエフとカミュの友人の息子が重なって見えます。
2人とも革命や独立運動の正義の為とはいえテロで人命を奪った代償に従容として自分の命を差し出したわけです。
『最初の人間』とは人間の根源的なモラルについて暗示しているような気がします。

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