キリマンジャロの雪:ロベール・ゲディギャン

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「キリマンジャロの雪」といえば、ヘミングウェーの有名な小説が想起されるが、2011年のフランス映画「キリマンジャロの雪(Les neiges du Kilimandjaro)」は、それとは関係がない。この映画は、フランスの労働者気質のようなものをテーマにしている。

舞台は港町マルセーユということだ。そこの造船所で長らく労働組合の幹部を務めてきた男ミシェルが主人公。造船所のリストラで、多くの社員が解雇される。その解雇の対象を、ミシェルは組合幹部として決定するハメになる。ミシェルはそれを籤で決め、自分自身も解雇されることにする。ところが、籤に敗れた一青年が、ミシェルに復讐し、それに対してミシェルが許す、というような内容である。

解雇されたミシェルは、妻のマリ・クレールとともに老後の生活をそれなりに楽しんでいる。子どもたちや友人たちからは、長年の業績を評価してもらい、そのしるしとしてアフリカ旅行のクーポン券をプレゼントされる。ところがそのクーポン券と祝金とを、押し入り強盗に強奪されてしまうのだ。その際にミシェルは腕を骨折し、妹は恐怖のあまり失禁し、そのことがトラウマになる。

ミシェルは強盗の正体を突き止める。自分が籤で解雇の対象とした一青年だった。その青年をミシェルは当然憎むのだったが、かれの実情を深く知るにつれて、同情するようになる。その挙句に、孤児の境遇に陥った青年の幼い弟たちを引き取る決意をするというような内容だ。

要するに人間性を取り上げたヒューマンドラマといってよい。そのヒューマンドラマに、フランスの労働運動を絡ませている。フランスの労働運動は、単なる経済闘争ではなく、正義と友愛を目的としたものだ、といったメッセージがたえず聞こえてくるような作りになっている。社会主義者のジョレスの名がたびたび出てくるが、ジョレスは正義と友愛の象徴として捉えられているのである。

そんなわけで、かなりメッセージ性の強い映画である。そのメッセージがやや押し付けがましいところに、欠点を感じさせられる。






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