青い凧:田壮壮、中国現代史を描く

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田壮壮は、陳凱歌や張芸謀と同じく、いわゆる第五世代に属する映画作家だが、政治的な傾向が強く、共産党政権に批判的な映画を作ったりして、不遇をかこったこともある。かれの代表作「青い凧(藍風箏)」は、1950年代から60年代にかけてのいわゆる毛沢東時代を、批判的な視点から描いた作品。共産党の怒りをかって、以後十年間映画製作を禁じられたという、いわくつきの映画だ。

つつましく生きる一人の女性と、彼女の周辺の人物を描く。彼女は、革命後の新時代中国に、希望をもって愛する人と結婚し、一人息子をさずかった。毛沢東は、いわゆる百家争鳴の運動を巻き起こし、誰でも自由に意見を言えと発破をかけたところ、新体制を批判する意見も出てきた。それに驚いた共産党は、体制に対して批判的な者に右派のレッテルを貼って弾圧する。主人公樹娟の夫小竜も、何者かによる誹謗中傷を受けて右派のレッテルを貼られ、どこかの強制労働所へ送られたうえで死んでしまう。また、夫の弟の許嫁も、投獄されてしまうのだ。

母子二人になった樹娟たちのもとへ、李という男が近づいて、何かとかれらの面倒を見る。心を許した樹娟に、李は過去の裏切り行為を懺悔する。小竜や許嫁を売ったのは自分だというのだ。そんなかれを樹娟は許すのだが、束の間の幸せも空しく、李は死んでしまう。

娘母子の心配をした母親の配慮で、樹娟は三度目の結婚をする。成長した息子の鉄頭は、義理の父親と打ち解けることができない。そのうち文化大革命が勃発し、狂った少年少女たちが造反有理を叫んで、かたっぱしから人々を血祭りにあげてゆく。樹娟の三度目の夫老呉も紅衛兵たちの迫害を受ける。樹娟は夫を助け出そうとするが、紅衛兵たちによってはばまれる。そんな母親を助けようとした鉄頭も、紅衛兵たちによって袋叩きにされるのだ。

こういう具合に、この映画は時代の動きに翻弄される庶民を描いている。時代をリードし、時に庶民を迫害するのは毛沢東であり、庶民はその滅茶苦茶な政治によって生活基盤を破壊されるばかり、というようなメッセージが伝わってくるように作られている。そこが共産党の怒りをかった理由だと思う。

文学の領域ではいち早く、莫言や鄭義といった作家たちが、現代中国史に題材をとった作品を発表し、そのなかで政治指導者たちの非合理性を暴き出していた。それが災いして鄭義は亡命を強いられたのだが、映画の世界では、田壮壮が、この作品の中で、毛沢東時代の行き過ぎた大衆運動を批判的に描いたわけである。じっさいこの映画に出て来る中国の大衆は、紅衛兵が典型であるが、支配者の陰謀に軽々と載せられる愚かな人間たちというふうに描かれている。そこは中国人たちの自尊心を刺激するところかもしれない。

映画のラストシーンは、紅衛兵たちに袋叩きにされた鉄頭が、口から血を流しながら空を見上げる姿を映し出す。かれの視線の先には、空に浮かぶ青い凧がある。この凧は、鉄頭の幼い頃からかれを見守ってきたのだったが、いまはこうして、空の高みから、袋叩きにされ、血まみれになった鉄頭を見下ろしているのである。その鉄頭の表情が、なんともいえず印象的だ。





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