ようこそ、羊さま:劉浩

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劉浩(リウ・ハオ)の2004年の映画「ようこそ、羊さま(好大一対羊)」は、中国の貧しい農村の人々の生き方を描いた作品である。2004年といえば、改革解放の恩恵は内陸部の農村地帯には及んでいないと見え、とにかくすさまじいほどの貧困振りがうかがえる映画だ。人々は貧困な上に、因習的でしかも無知である。だからといって、必ずしも不幸なわけではない。人々自身が自分を不幸とは思っていないのである。そんな人々の生き方を、叙情たっぷりに描いたこの映画は、実にほのぼのとした気分にさせてくれる不思議な映画である。

舞台は、乾燥し切った台地。おそらく陝西省かどこかの、乾燥地帯なのだろう。そういう乾燥地帯は、陳凱歌の作品「黄色い大地」にも出てきたが、それらを見ると、とにかく視界の限り黄土しか見えないのである。この映画の中では、そんな黄土を耕すシーンが出てくるのだが、果たしてそんなところで収穫が望めるのか、他人事ながら心配になるほどである。

一匹の羊を飼っている農民が主人公である。50歳を越えたとおぼしいかれは、やや年下の妻と共に、あばら家に住んでいる。泥で作った粗末な小屋だ。部屋は一つだけで、その片隅に置いたベッドで一緒に寝ている。気が向くとセックスをする。男から誘うこともあれば、女から誘うこともある。仲のよい夫婦だ。

男は、事情があって金が必要になったことで、なけなしの羊を売り飛ばす。ところが、羊の世話をしていたことを見込まれて、雄雌二頭の外来羊の世話をするように村の当局から命じられる。この村を、羊飼育の模範として売り出すキャンペーンに動員されたというわけである。

かくして、二匹の羊と夫婦との共同生活が始まる。この羊を大切にして、十分に肥えさせ、子どもを繁殖しろというのが当局の命令である。そこで夫婦は、この羊たちが寒さに弱いことから自分たちの部屋の中に住まわせ、うまいものを食わせてやる。そのためには、近隣の村まで泊りがけで出かけ、青草を食べさせてやることもする。また、大豆入りの特製飼料を調合して食べさせてもやるが、そのため羊が便秘になると、獣医に相談して下剤を飲ませたりする。至れり尽くせりなのだ。

最大の問題は、どのようにして子どもを生ませるかだった。この羊たちには、一向に交尾しようとする意欲が感じられないのだ。そこで、催淫薬を調合して飲ませたところ、俄に身ごもる。だが、難産の挙句死産になってしまう。それに激昂した当局は、夫婦から羊を取り上げてしまう。だがこの夫婦は、自分たちの子どもがいないこともあって、羊を偏愛するようになっていた。羊が奪われるのは、我が子を奪われるのと同じくらい辛いのだ。そこでかれらは、羊がつながれている遠い町まで出かけていって、当局の眼を盗んで、羊を連れ出すのである。映画はかれらが、羊を追いながら我が家目指して歩いていくところを映しながら終わるのである。なんともいえず、心温まる映画である。






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