NHKのナベツネ崇拝番組

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雑誌「世界」の最新号(2021年10月号)に、ジーナリスト西山太吉の「『NHK』に問う」という小文が載っていたのを興味深く読んだ。これはNHKが「渡辺恒雄独占告白」と銘打って、最近二度にわたって放送した番組を批判したものだ。渡辺恒雄は「ナベツネ」の略称で知られ、日本のメディア界に巨大な影響力をもつ。その限りで、NHKが特集番組を組むのはおかしなことではないが、それにしても、合わせて四時間に及ぶ放送内容は、ナベツネ個人崇拝といってもよいもので、公共放送をうたっているNHKとしては、きわめて異例だというのが西山の批評の眼目だ。

一度目の放送は小生も見た。二度目のは未見だが、どのようなものかだいたい見当はつく。一度目の内容は、無批判にナベツネを持ち上げるというものであり、小生などは非常に胡散臭さを感じたものだが、二度目もそれと大差ないと思われるからだ。一度目は、ナベツネのジャーナリストとしての力の源泉が有力政治家との癒着にあったと匂わせていたが、平成時代を対象にした二度目の内容は、小泉・安倍との関係に焦点をあてているらしく、ナベツネと彼の読売新聞が小泉・安倍の最大の応援団だったことを勘案すれば、自ずから放送内容がどのようなものか浮かび上がってくる。

西山は、ナベツネが安倍の力強い応援団として、安保法制や特定秘密保護法の改正に大きな影響力を発揮したことに着目している。特定の新聞が特定の政治勢力を応援すること自体は、別にめずらしいことでもなく、また、責められるべきことでもないが、日本の場合には、新聞は公器としての公正さが期待されており、また新聞も公器を装っているので、その公器としての陰に隠れて、政治的に偏った言動をすることは問題がある。そう西山は考えているようである。

西山は、今回のNHKの放送姿勢が、そうした新聞のあり方をまったく度外視して、ナベツネ本人の言い分を、ほぼ一方的に垂れ流しているとの印象を受けたというような書き方をしている。小生も、一回目の放送内容から、そうしたNHKの腰の引けた姿勢を感じたものだ。何らの批判意識もなく、ただナベツネの言い分を垂れ流しにするのでは、公共放送としての自覚に欠けていると言われても返す言葉がないだろう。NHKは、西山のそうした指摘について、それは見方の相違だと開き直ったそうだが、その開き直りは、巨大な権力者である安倍やナベツネへの忖度の上に成り立っているのだろうと、小生などは受け止めた次第であった。






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