姜尚中「朝鮮半島と日本の未来」

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姜尚中は在日韓国人二世としての立場から、朝鮮半島問題や日韓関係について発言してきた。その基本的なスタンスは、朝鮮半島の南北が平和的に統一され、その統一朝鮮と日本とが対等で互恵的な関係を結ぶべきだというものだ。「朝鮮半島と日本の未来」(集英社新書)と題したこの本も、そうした立場から書かれている。朝鮮半島における統一政権の樹立について姜はかなり楽観的であり、日本はそれに手を貸すべきだと言っている。というのも、統一された朝鮮は、日本にとってプラスの存在にはなっても、マイナスになることはないという信念があるからだろう。

小生も朝鮮半島に統一政権ができることには賛成だし、その統一朝鮮と日本が深い関係を持つのは、地政学的にもまた経済的・社会的な諸側面からも好ましいと思っている。しかし、小生のような意見は日本では少数派だし、ましてや在日韓国人二世である姜尚中が主張することには、はなから耳を貸さない日本人が多数を占めるというのが現実だ。日本の主流勢力は、朝鮮半島の統一を望んでおらず、いまのように分裂したままのほうがよいと考えている。それはアメリカも同様だ。アメリカは、分裂を固定したままで、北朝鮮による対米核攻撃をほぼ永久に無力化できれば、それでよいと考えている。日本はそのアメリカに従属しているから、アメリカの意向に逆らってまで、朝鮮情勢に深くコミットする気もないというのが本当のところだろう。

日本とアメリカとの間で、思惑違いが生じるとすれば、アメリカが北朝鮮のICBMを封じ込める一方、中・短距離ミサイルの開発は黙認する場合だろう。その場合、日本は北朝鮮の核の脅威にさらされたままなので、安全保障が保てなくなる。そういう状況は、日本の核武装への意思を強めることになるだろう。

小生がなぜ、日韓・日朝関係の未来に悲観的かというと、日本には朝鮮半島を支配したいという秀吉以来の伝統があるからだ。秀吉自身は神功皇后の朝鮮征伐を意識していたらしいが、それはともかく、朝鮮は支配の対象、征服すべき敵であって、ともに手を携えて歩むべき対等のパートナーではありえなかった。だからこそ、明治維新後非常に短い期間に、朝鮮半島の併合に踏み切ったのである。

日本が植民地としての朝鮮半島を手放したのは、敗戦の反射的な効果であって、朝鮮の独立運動の成果でもないし、日本が自主的に植民地支配を清算したわけでもない。日本にとっての朝鮮半島問題は、いわばなしくずしの形で、敗戦処理の一環として位置付けられたといってよい。朝鮮が対日講和会議に参加することも認められなかった。国際的な枠組みの中での方向が示されないまま、当事者同士での解決を迫られたわけである。

そういうわけであるから、日本としては、世界の大勢からして朝鮮半島の植民地支配はさすがに追及できなくなったが、さればといって、かつての朝鮮支配について、謝罪すべきいわれも感じなかった。そんなわけだから、敗戦後20年近く、日韓両国はまともな外交関係をもてず、北朝鮮にいたっては、現在まで全く無関係な状態が続いている。日本としては、植民地としての朝鮮半島は、いわば妾のような存在であって、それが色々な事情で破綻したが、破綻を繕う責任が日本にあるとは必ずしも思っていない。朝鮮は妾の分際なのだから、欲しいものがあったら、旦那に膝を屈して乞えといった態度を敗戦後一貫してとっている。旦那である自分から、別れたあとの妾の面倒まで見てやるいわれはない、というわけである。だから、韓国との間で日本がこれまでやってきたのは、あくまでも旦那の心意気からで、義務感からやったわけではない。それをあたかも日本の義務であるかの   如く声高に叫ぶのは実に許しがたい忘恩の行為だ。そんなふうに大多数の日本人は考えている。

だから、南北の統一と、それへの日本の主体的なかかわりを望んでいるらしい姜尚中は、あまりにもナイーブだと言わざるをえない。

朝鮮半島の未来に日本がどう関わるかという問題については、先ほども言ったように、日本から積極的に打って出ることはないだろう。とくに南北の統一については、日本はむしろそれを面白く思わないであろう。統一された朝鮮半島は、南北が分裂した状態よりも、日本にエネルギーの消費を強いるであろう。北朝鮮とはいまだに平和条約が結べていない。その平和条約を日朝間で結ぶのはきわめてむつかしいと思うが、もし結べたとしたら、それに対応する形で、日本は巨額の財政支出を強いられるだろう。韓国との間でもめている様々な問題、従軍慰安婦とか徴用工の問題についても、ゼロからの取り組みを強いられるであろう。南北統一政府を相手にすることになれば、韓国との間で決着済みと考えていたことまで、蒸し返されるであろう。

小泉政権の頃までは、日本にはまだ国力があり、朝鮮半島をまるごと面倒見る余裕があった。いまはそんな余裕はない。できれば日本は、そんな余裕のことを考えずにすむように、朝鮮半島は半永久的に分断されているほうが、都合がいいのである。

そういう事情であるから、南北の近い将来における統一と、それへの日本の深いかかわりを期待する姜尚中の意見は、日本の主流派の人々にとっては、迷惑以外のなにものでもないということになる。姜尚中は右翼の攻撃の的となっているようだが、かれが右翼に攻撃されるのには、それなりの理由があるのだ。





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