幽霊西へ行く:ルネ・クレール

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ルネ・クレールは1935年にフランスを離れイギリスに渡った。前年に作った「最後の億万長者」が興業的に失敗したことにショックを受けたためといわれる。その映画をクレールは、隣国ドイツで独裁者になりつつあるヒトラーを意識して作ったのだったが、フランスではヒトラーはまだ大して注目を集めておらず、したがってその映画も大きな話題になることはなかったのだろう。

イギリスでは、アレクサンダー・コルダの援助を受けて「幽霊西へ行く(The ghost goes west)」を作った。スコットランドの古城に住み着いていた幽霊が、買われた城ともどもアメリカに運ばれ、そこで一騒動起こすというような内容で、鋭い時代感覚と批判精神を売り物にしていたクレールとしては、気の抜けるような娯楽作品だった。かれの風刺精神をもしこの映画の中に探そうとすれば、それは、アメリカ人の俗物根性を笑い飛ばしているところくらいだろう。

200年にわたる幽霊の怨念がテーマである。十八世紀のスコットランドの城主だった男が、隣人との戦いに敗れ討ち死にする。その後彼は、自分の城に、父親の幽霊ともども住み着くことになる。

やがて200年後に、その城が売り出されることになる。売り出したのは、幽霊の身内の子孫ということになっている。その二人の人物(幽霊と人間)を、ロバート・ドーナットが演じている。そこへジーン・パーカー演じるアメリカ女がやってきて、城が気に入ったので、父親にねだって買い取ることとする。アメリカ女は、城よりも、そこに住み着いているハンサムな幽霊のほうに愛着があるらしいのだ。

かくて城は解体されて船に積まれ、アメリカへと向う。あわただしい雰囲気を不審に思った幽霊は、大勢の船客の前で姿を披露したところ、珍しいものには目がないアメリカの俗物どもの賛嘆の的となる。ニューヨークでは、幽霊一行を迎えるために空前の式典が組まれる始末だ。

城はフロリダで組み立てられ、盛大なレセプションが催される。その席に幽霊も登場する。城を買った俗物は、なんとか幽霊を皆に見せたいと思っていたところ、それが現われたので大満足。そのうち、客の中に幽霊を殺した男の子孫という者のいることがわかる。幽霊はその子孫を捕まえてさんざん憂さ晴らしをする。殺したりはしない、驚かせて楽しんでいるのだ。

そんな具合に、200年を距てて、幽霊の鬱憤が晴れたところでメデタシメデタシと終わる。なんとも気の抜けた話である。クレールとしては、作らずもがなの駄作というべきだろう。





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