眠るパリ:ルネ・クレール

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1924年のフランス映画「眠るパリ(Paris qui dort)」は、巨匠ルネ・クレールの映画デビュー作である。フランスは映画先進国として世界の映画界をリードしてきたのであるが、ルネ・クレールはそんなフランス映画界の申し子よろしく、以後世界の映画に大きな影響を及ぼしていく。チャップリンの傑作「モダン・タイムズ」や「独裁者」が、クレールの「自由を我らに」や「最後の億万長者」から大きなインスピレーションを得たことはよく知られている。

この映画は、そんなクレールのデビュー作ではあるが、フランス映画の伝統をよく吸収した上で、映画の可能性を、当時考えられるかぎり盛り込んでいる。いくつか指摘すると、やや長回し気味ながら的確なモンタージュ構成、モンタージュと密接な関係にある技法としてのクローズ・アップやフラッシュ・バックといったもの、当時としては斬新だった高所撮影などである。長回し気味といっても、フィルムの回転が速いので、だらけた印象は与えない。

パリの街が突然死んだように停止してしまったというような設定である。エッフェル塔の監視員をしている男が、いざ仕事に取り掛かろうとして下界を見下ろすと妙なことに気づく。人間は歩いておらず、車も停止したままなのだ。町を歩きながら男は、人形のように凝固してしまった人間たちに悪さをする。こういう設定はある種の子供だましのようだが、なかなか人気があるとみえて、いまでも様々な形で採用されている。ある時突然全ての人間が凝固してしまい、自分だけが動いているという設定は、なかなか楽しいものなのだ。

男は、動き回っている数人の集団と出会う。かれらはマルセーユから飛行機に乗ってパリに来たのだという。パリ中が眠ったように動かなくなってしまったので、かれらはやりたい放題である。フランス銀行に押し入って大金を盗んだりする。しかしいくら大金を持っていても、世界中に彼らしか存在しなければ、意味がない。そんなわけでかれらは次第にノイローゼ状態に陥り、仲間同士喧嘩したりする。喧嘩の原因はいろいろあるが、もっとも大きな原因は女が一人しかいないことだ。そこで男たちはその女を巡って闘争状態になる。誰もが自分のタネをその女に撒きたいのだ。

そのうち、ある女からSOSの連絡がくる。さる場所まで、自分を助けに来て欲しいというのだ。そこでみなで行って見ると、一人の若い女が出迎えて、パリが眠ってしまった事情について語る。彼女の父親は高名な科学者で、時間を停止させる機械を発明した。その機械を用いて化学光線をパリの街に放射したところ、パリの街は一瞬にして眠ってしまったというのだ。だがその光線は、数十メートルの高さしか届かないので、エッフェル塔の上にいた監視員や、エッフェル塔の上空を飛んでいた飛行機は影響を受けなかった。そこでかれらは、自分らだけがなぜ動いていられるのか、その理由を理解できたのである。

みなに迫られて、博士は元通りにする方法を開発する。壁を黒板代わりに使って複雑な計算をくりかえし、状態を元にもどす方法を発見するのだ。その結果パリの街は再び動き出し、かれらももとの状態にもどる、というような内容の映画である。

他愛ないといえば他愛ないが、そうした他愛なさを真面目な雰囲気に仕上げるのがクレールのクレールらしいところで、サイレント映画ではあるが、いまでも十分楽しめる作品である。






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