ジェニエ爺さんの馬車:アンリ・ルソーの世界

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ジェニエ爺さんは、ルソーが晩年に暮らしていたペレル街の界隈で食料品店を営んでいた。ルソーはその店に多額のツケがたまったのだが、なかなか支払えないでいた。そこでツケのお詫びに描いたのが、この絵だという。これはジェニエ爺さんの一家が馬車に乗ってピクニックに出かけるところを描いており、家族にとってはよい記念になるものだった。

ルソーはこの絵を、ジェニエ家にあった写真をもとに描いた。ルソーとしてはかなり忠実に描いたつもりのようだったが、たしかに構図的には写真をほぼ忠実に再現したものと言ってよい。ただし、人物の一人を自分自身の姿に描いて、一家に敬意を表する一方、馬の前を歩く小さな犬を加えた。その犬が異常に小さく描かれているので、観客は比例感覚を攪乱される。

人物の大部分も、へんな具合を感じさせる。写真では、人物はみな場所の進行方向を向いているのだが、この絵の中の人物は、観客の方をむいている。これは人物を描くときには、専ら正面から描いたルソーの流儀が優先した結果である。

写真に比べると、より広々とした空間感覚が伝わって来る。これはこの絵の手柄ではないか。

(1908年 カンバスに油彩 97×129㎝ パリ、オランジュリー美術館)





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