豹に襲われる黒人:アンリ・ルソーの世界

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「豹に襲われる黒人(Un nègre attaqué par un léopard)」は、最晩年の異国趣味をモチーフにした一連の作品の一つ。鬱蒼としたジャングルの中で、豹に襲われる黒人を描いている。このように人間が野獣に襲われるというモチーフは、ルソーの絵としては珍しい。ルソーはこの絵の構図上のヒントを、子供向けの絵本から得たという。その絵本では、動物園の飼育員と豹がたわむれている図柄が描かれていたのだったが、ルソーはそれを、豹が黒人を襲う場面に転化させたのである。その理由ははっきりしない。

もしも人間が野獣に襲われるというテーマを強調したいのであれば、豹と黒人はもっと大きく描いてもよさそうなものだ。ところがこの絵の中の豹と人間は、周囲の植物と比較してあまりにも小さい。黒人などは、よく目を凝らして見ないとわからないほどだ。もっともそれは写真で見るからであって、実際の画面を見れば結構迫力をもって迫ってくるのかもしれない。

背景の空に赤い太陽を描いているのは、夕日を強調したかったからだろう。ルソーは背景の空に太陽を浮かべるのが好きだったが、こんなに赤々として大きな太陽はほかには見られない。

熱帯植物の描写が非常に綿密で、ある種のマニアックぶりを感じさせる。ルソーには現代のマニエリストとしての資格がある。

(1910年 カンバスに油彩 114×162㎝ バーゼル市立美術館)





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