秋のいこい:竹久夢二の美人画

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「秋のいこい」というタイトルは、夢二自身がつけたものではなく、あとでそう呼ばれるようになったもの。この絵から伝わってくるのは、「いこい」ではなく焦燥感だろう。おそらく田舎から出てきた女がこれからどこへ行こうかと思案しているか、あるいは職を失た女中が途方に暮れているようにも見える。女の傍らに置かれた信玄袋は、旅の品々を入れるためのものなのだ。

当時の世相は、米騒動があったりして騒然としていた。景気も悪く、失業している者も多かった。この絵にはそうした世相が反映されているのではないか。若い頃に社会主義の洗礼を受けた夢二は、社会問題には敏感だったはずだ。

モデルはお葉である。彼女は十六歳で夢二の前に現れて以来、夢二の理想の女性を表現する存在となった。彼女の写真が残っているが、それを見ると、この絵のモデルと同じポーズをしているものがいくらもある。

ベンチに覆いかぶさる木はプラタナスだろう。大柄な落ち葉がこ女の足元を黄色く染めている。この木とベンチのほかには、余計な背景はない。

(1920年 紙本着色 150.8×163.0㎝ 岡山市、夢二郷土美術館)






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